1章 練兵場の決闘
貴族相手の宿である『女神の杵』亭の一番高級な部屋で、ワルドはワインを注ぐ。
「ルイズ、一緒に一杯やらないかい?」
ルイズは少しだけためらう素振りをみせたものの、ワインを注いでもらう。
彼女はちょっとだけとまどいながらも杯をカチンとあわせた。
「ふふ、一度こうしてワインを一緒に飲んでみたかったのさ。姫殿下から預かった手紙は?」
「持ってるわ、ほら」
ルイズの出した手紙に、ワルドは満足そうに頷いた。ルイズはふと、この手紙について思考を巡らせる。
(…この手紙には、いったい何が書かれているんだろう…。そして、かつてアンリエッタ姫がウェールズ様に送った手紙って…?)
考え事をしているルイズを、興味深そうにワルドが覗き込んでいる。
「…心配ないよ、ルイズ。きっとウェールズ皇太子から姫殿下の手紙を取り戻せるさ!
なんてったって、ぼくがついてるんだから!」
「…ええ、頼りにしてるわ。あなたは昔から頼もしかったから。…で、話って?」
「ああ、そうだった!…覚えてるかい、ルイズ?あの日の約束を…、きみの実家の中庭にある、あの小舟で…。
きみはいつもご両親に怒られた後、あそこに隠れていたなぁ…。…捨て猫のようにうずくまってた」
「もう、へんなとこばかり覚えてるのね」
ワルドは楽しそうだった。
「そりゃあもちろん。…いつも、きみは姉たちと魔法の才能を比べられていた。でも、ぼくはずっとそれを間違いだと思っていたよ。
…たしかに、きみは失敗ばかりだったかもしれない。けれど、誰にもないオーラがあった」
「…精神的な話?」
「いや、ぼくはきみの中にある、特別な力に気づいていただけさ。ぼくだって並のメイジではないから、そういうのがわかる」
「冗談にしか聞こえないわ、ワルド」
「冗談なわけない。…例えば、きみの使い魔…」
ルイズは顔を赤くする。
「それって…師のこと…?」
「そうさ。彼があの伸びる剣を使ったとき、左手が光っただろう?…あれは、ただのルーンではない。
…伝説の使い魔、『ガンダールヴ』の印だ。…始祖ブリミルの使い魔と言えばわかるかい?」
「…伝説の、使い魔…?」
ワルドは妖しい笑みを浮かべる。
「そう、きみはそれだけの力を持っているんだよ」
「…………、少しだけ、考えをまとめさせて」
「いいとも」
ルイズは彼の言うことを客観的に考えてみた。
(…たしかに師はとんでもなく強いけど、伝説の使い魔だなんて言われても…。
きっと冗談よね…?)
ワルドは熱っぽい口調でルイズに語りかける。
「……きみは、偉大なメイジとして歴史に名を残すだろう。始祖ブリミルの再来と呼ばれるきみが、目に浮かぶようだ…!
……この任務が終わったら、ぼくと結婚しよう、ルイズ」
「……は、え…?」
いきなりのプロポーズに、ルイズの頭は混乱してしまった。
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