序章 情熱の魔女
ベレトは医務室にギーシュを突っ込んだ後、彼が起きるのを待つ。
一方ルイズはというと普通に午後の授業に行った。根っこが真面目な彼女は授業をサボったことがないのだ。
一時間後、ギーシュは目を覚ました。
「うぐ…こ、ここは…?」
「あ、起きた」
「……げえええ!!?ゆ、許してくれ!僕はまだ死にたくない!!」
ベレトに完敗したのがよほど堪えたのか、ギーシュは逃げ出そうとした。
傭兵はどうどうとギーシュを落ち着かせる。
「まあまあ、落ち着くんだギーシュ。殺す気なら黙ってるうちにサクッと殺してる」
「…そ、そうか…。……え、じゃあ何の用??」
「ああ、君の『ワルキューレ』についてだ。君はあの決闘に負けた原因は何だと思う?」
「…ええ?そ、そりゃあ…なんだろう?メイジが傭兵に負ける原因…。
…そっちが無茶苦茶強かったから、とか??」
「はずれだ。君は『ワルキューレ』のメリットをうまく引き出せていなかった。
一体やられた後、恐怖で全部突撃させるなんて下策にもほどがある。」
ギーシュは困ったように首をかしげる。
「えー…。それでも普通は勝てるからメイジではないのかい?」
「もっと数の差を活かせ、ということだ。陣形を組むだけでだいぶ戦いやすくなる。
…君はそういったことを誰かに習っていないのか?」
「ぐ、グラモン家は軍人の家系だぞ!」
どや顔でサムズアップしたギーシュに傭兵は頭をかかえた。
(多少習っててコレかぁ…。…いや大丈夫だ、ケンカにしか興味のないカスパルに兵法を叩き込んだ日々を思い出せ…。
最初は拳闘と斧の授業以外居眠りしてた彼だって一人前の軍人になれたんだ、このぐらい問題児のうちに入るか…!)
思えば問題児ばかりのクラスだった。真面目に授業を受けていたのが半分以下なのはさすがにおかしい。
ベレトは割と気楽にクラスを選んだが、癖の強い連中に苦労した(もちろん級長含む)。
「…ギーシュ、強くなりたいとは思わないか?…君に自分の用兵術を教えてもいいと思っている…もちろん君が望むなら、の話だが」
「……お金なんて余分にないぞ…?」
「軍人の家系ならいずれ戦場に出るんだろう?指揮ができれば生還率も大きく上がる。
自分の策で長生きしてもらえるなら十分すぎる報酬だ」
ギーシュは迷っている素振りを見せる。彼だって男として生まれたのだ、強さというものに憧れたことはある。
しかし、平民に教わるというのは一般的な貴族にとって屈辱なことだ。
…それでも、一歩を踏み出さなければ変わることはできない。
「………」
「…まあ今返事をしなくてもいいさ。気が向いたなら自分に言ってくれ、それじゃあ…」
去ろうとしたベレトに、ギーシュは慌てて制止する。
「ま…待ってくれ!!……頼む、変わりたいんだ。自分勝手で弱い自分なんか嫌いだ…
…でも、君なら変えてくれるんだろう、僕を!変われるんならかっこいい僕がいいに決まってる!!」
「…ギーシュ…!」
「君の力を貸してほしい。…これからよろしく、先生!」
ぐっと二人は握手を交わす。これからは教師と生徒として共に歩む日々が始まるのだ。
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