ハーメルン
幻想郷に中途半端に転生したんだが
時は流れて…





無縁塚。


幻想郷のはずれ。魔法の森を抜け再思の道と言う道を進んだ先にある場所。秋になるとこの場所には多くの彼岸花が咲き乱れ、春には紫色の妖怪桜が咲く。


それだけ聞けば名所や観光スポットにもなりそうだがこの場所は人や妖怪はまず寄り付くことが無い。ここの彼岸花は毒を持ち、妖怪桜が散り行くさまは悲しすぎるからだ。


誰も近寄らない理由はそれだけではない。ここは結界が緩んでおり外の世界、または冥界と繋がりやすくなっている。幻想郷、現世、冥界。この3つの世界の境界が曖昧であるという場所は非常に危険である。例えば人間が結界を越えて冥界に行ってしまえばまず帰って来れないし、妖怪が現世に行ってしまえば自分の存在を保つことが出来ないからだ。下手をしたら結界の狭間、境界に落ちてしまえば戻ってこれるのは妖怪の賢者くらいだろう。


そんな場所に一つの人影があった。


一体誰がこのような場所に何の用があってきたのか?青年と言える少し手前の年頃だろうか。朱色の衣を纏い何所と無く暗い影を背負うその人影は無縁塚に点在する石に花を沿えていた。その衣から見える彼の体は逞しく、刻まれた無数の傷は歴戦の戦士を思わせた。しかし、彼の表情は今、憐憫に満ちていた。


無縁塚。ここには弔う者のいない人間が葬られる場所。ここに人里に住む人間はほとんどいない。ここに眠る人間のほとんどは、幻想郷に紛れ込んだか……妖怪の食料として連れて来られた外の人間である。無造作に点在する石の全てに花を添えた彼は、目を閉じて手を合わせる。


「……………」


ここには彼の縁者はいない。家族もいなければ、友人もいないし知人さえも眠ってはいない。ただ彼は、心から祈っていた。おそらく絶望と苦悩の中で死んでいったであろう亡者のために。見も知らぬ外の住人のために祈る彼の胸中はいかなるものなのか、それは彼だけにしか知りえない。


ガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッガタッ


突如、無縁塚のあちらこちらからけたたましい音が鳴り出した。それらの音は無縁塚のあちらこちらの地面から出ている。やがてその音が一箇所に集まり始めた。彼は、目を開くとその場から大きく飛び退いた。


さっきまで立っていた場所の地面から人間の身の丈程もある大きな手が飛び出していた。ただの手ではない、それは人間の骨の手だった。そして、這い出るように地面からそれは姿を現した。骸骨。それを表せば一言で済んだ。ただその大きさが異常だった。巨人の成れの果てともいえる巨大な骸骨が地面から姿を現した。


「……………」


飛び退いた彼は、その骸骨の姿に驚愕するでもなく、敵意を向けるでもなく、先程と同じく憐憫の眼差しで巨大な骸骨を見る。


巨大な骸骨は、眼球の無い暗い眼窩で彼を捕える。その瞬間、


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!」


骨だけで一体何所から声を出しているのか、骨だけの姿でその骸骨は咆哮する。その声は怒っているようにも、恨んでいるようにも、羨んでいるようにも聞こえた。その声に彼は瞑目した。

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