時は流れて…
骸骨が手を伸ばす。骨だけのその手は、目を閉じる彼めがけてまっすぐに伸びる。だが、それは彼には届かない。まるで見えない壁にぶつかったかのように骸骨の手が止まる。それでも骸骨は構わず手を伸ばす。両手を見えない壁について、頭をぶつけて彼を目指す。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!」
いつの間にか骸骨の周りを見えない壁が覆っていた。それに気づくことなく、あるいは気にしていないのか、骸骨は目の前の彼を、まだ心臓が脈打ち体に血が流れて生きている彼めがけて進もうとする。
彼は目を開けると、いつの間にかその手には槍が握られていた。彼は見えない壁を挟んで骸骨と対峙する。そしてその槍を構えると、壁に突き刺した。いや、それは突き刺すというよりも寧ろ鍵穴に鍵をさすように見えた。
「……恨みも怒りも、何もかも忘れて、成仏してくれ」
そう言うと、槍から壁に波打つように白い波が広がった。それは壁に囲まれる骸骨を徐々に覆っていく。
「■■■■■■■■■■―――――――――――………………………………………………………………」
巨大な骸骨は、糸が切れたかのように倒れると、ゆっくりと消えていく。まるで初めからそこにいなかったかのように。
そして消えるのを見届けると、彼―――ひしがきは、無縁塚に背を向けて再思の道へと帰路に着いた。
いつもの見回りを終え、少し寄り道をした後、人里の中を現『博麗』であるひしがきは歩いていた。見回りをした後にこうして里の中まで歩くのは、里の人間に自分が無事であること、つまり里に危険が迫っていない事を遠まわしに伝えるためにひしがきが行っていることである。
「……………」
ひしがきが『博麗』になってからもう5年が過ぎようとしていた。里はひしがきが『博麗』に着いた当初、不安定な状態にあったが、ひしがきの努力もあり今ではその不安な空気もほとんどなく安定してきている。
しかし、当初まだ力の弱かったひしがきの力不足で出た被害によって里の中でひしがきに対する評価は賛否両論だった。それでも今では先代の巫女に近い状況にまで落ち着いたことでひしがきは名実共に『博麗』として人里に認知されていた。
「アニキー!」
「ん?ああ、お前か」
向こうから次男の弟が走ってきた。今年で13になる弟は、父親と同じく大工の仕事をしている。まだ見習いだが、筋がいいと褒められたと以前嬉しそうに話していた。
「最近どうだ、何か変わったことはあったか?」
「んー、特に無いかな?家でも特に変わった事なんてないし」
「……この間いろはの件で色々あったって聞いたけど?」
「……あ~~」
先日、妹のいろはが親と大喧嘩した。その理由はいろはが退治屋に入ると言ったのが原因だった。この話を聞いた両親は反対した。まだ10歳の女の子のいろはに退治屋などさせるわけにはいかないと。
これに対していろははならば何故9歳だった頃の兄である自分が退治屋よりも遙かに重い『博麗』に就いていたのかと反論した。これには両親も言葉が詰まったようだ。俺の処遇についてはある意味で人柱同然でもある。親として、自分の息子に強いてしまった事実を突きつけられてしまっては言い逃れは出来ない。
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