ヒャッハー!
まずい。そう考えすぐさま引き返そうとした時。
「キィィィィィイイイイイイイイ!!」
金切り声のような叫びと共に頭上から昆虫のような姿の妖怪が飛び掛ってきた。
「!!っくぅ!」
結界を張る暇もなく咄嗟に槍を盾に代わりに構え受け止める。しかし受け止めきれずに体制を崩し妖怪に覆いかぶされる形になる。
「キィ!キィ!」
ガチガチと目の前で妖怪の顎が俺に喰らい付こうと鳴っている。
「このぉ!」
引き剥がそうとするが俺の腕力では妖怪を持ち上げることができない。妖怪は足をばたつかせ俺に向って顎を鳴らし続ける。
「!ちぃ!」
妖怪と自分の間に結界を張る。隙間からすばやく抜け出し妖怪との距離をとる。妖怪は結界を顎で砕き再びこちらへと向ってきた。
その体は結界の呪いで既にボロボロになっているにもかかわらず早い動きで正面から飛び掛ってくる。勢いが衰えないならば結界を張ってもまたすぐに砕かれるだろう。
ひしがきは槍を構え正面から妖怪を迎え撃つように構えた。相手はこちらより大きい。正面から勢いをつけて来ている分突進力もある。正面からぶつかるのは一見愚策に見える。
ドスッ!
しかしひしがきの槍は微動だにせず妖怪を受け止め貫いた。槍の反対側、石突に地面を支えにするような結界を張り槍を固定していた。
妖怪は貫かれてしばらくピクピクと動いていたがしばらくして動きを止めた。
槍を引き抜き残りの結界を解除する。閉じ込められていた妖怪は全身が黒く染まり死に絶えていた。一応念を入れて槍を突き刺す。万が一にでもまた襲い掛かれないように用心深くしておくに越した事は無い。
そして、全ての妖怪の退治を確認すると、大きく息を吐いて安堵する。近くの木を背にもたれかかるとそのままへたり込んでしまった。
「はぁ……」
顔を伏せ息を吐くひしがきの表情は見えないがその顔が優れないのは漂う空気から察せられた。博麗の代理を務めてから3ヶ月。またひしがきは一日を生き残った。
まるで決まりごとのように定期的に襲ってくる妖怪を退けること4回目。たかが4回といってもまだ力の弱い自分には十分死地とも呼べる妖怪の退治を4回経験してきた。その中で危うく死に掛けたのは軽く10回を越える。
そんな綱渡りを今回も無事に渡り終えた。
「………………………………………………………」
手を握る。しっかりと感触がある。深呼吸をする。大きく息が出来る。胸に手を当てる。鼓動が伝わってくる。顔を上げる。視界が目の前の景色を写す。
自分が今此処で生きているのを実感する。
「ははっ……」
思わず笑いが漏れた。自分の命がまだ続いている事に心の底から安堵する。
博麗の代理を務めてから3ヶ月が過ぎた。まだ、3ヶ月しか経っていない。これを1年間も続ける?冗談だろ?
「……楽観してたわけじゃないんだけどなぁ」
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