1
アンリエッタがルーンを呟こうとする前に、少女はアンリエッタの口元を押さえた。反射的に悲鳴を上げようとしたアンリエッタだったが、それは苦痛の喘ぎ声に取って代わられた。杖を持つアンリエッタの手首が、少女によって鷲掴みにされたのだ。ギリギリと万力のような力で締め付けられて、アンリエッタは杖を取り落としてしまう。それを足で部屋の隅へ蹴り飛ばし、少女は更にアンリエッタの足を払う。
「きゃっ!?」
強烈な足払いが炸裂し、アンリエッタの体が少女の部屋の床へと転がり込んだ。少女が床へ叩き付けられると同時にアンリエッタに馬乗りになった。これで抵抗らしい抵抗もできまい。少女は杖を取り出してアンリエッタに突きつけた。
「私を消そうなんていい度胸ね。どこの手のものかしら? ゲルマニア? ガリア? それともトリステインの低級貴族?」
杖でアンリエッタの頬をグリグリしながら、少女は歌うように尋問を始める。アンリエッタは小さく「ひっ・・・・」と悲鳴を上げた。暗殺者のくせに、まるで生娘みたいな声を出す奴だと、少女は思った。
「ほら、キリキリ吐きなさい。言わなきゃ三秒ごとにあんたの体を少しずつ吹き飛ばすわよ? まずはその綺麗な指からね!」
少女の指に狙いを定め、ルイズは杖を振りあげた。
「ひと~つ・・・・・ふた~つ・・・・・みっ」
「ル・・・・・ルイズ!? あなたルイズでしょう!?」
ようやく自分の置かれた状況を理解できたのか、アンリエッタは慌てた様子で少女の名を呼んだ。アンリエッタの鈴を転がしたような声に覚えがあるのか、タイムリミット寸前で少女の体がピタリと止まった。振り下ろしかけた杖をそのままに、少女は恐る恐るアンリエッタの頭巾を取った。思わず「うっ」と息をのみ、顔面から血の気が引いていくルイズ。 言い知れぬ後悔の念に苛まれながら、ルイズは王女から飛びのいて慌てて膝をついた。
「ひ、姫殿下!!」
アンリエッタはヨロヨロと立ち上がり、スカートに付いた埃を払って下手な作り笑いをした。
「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ……」
気品たっぷりの立ち振る舞いだったが、彼女の声は未だ少しだけ震えていた。それからのルイズはただもう只管の平謝りだった。膝をついては謝り、部屋の隅に蹴り転がした王女の杖を拾ってきては謝り・・・・。次から次へと飛び出す謝罪の言葉に、謝られることに慣れているはずのアンリエッタすら思わずたじろいでしまうほどだった。
突然、杖を取り出した自分も悪かったのだと、アンリエッタはルイズを不問に付した。改めて『ディティクト・マジック』をかけて、部屋を調べた後、アンリエッタは感極まった表情を浮かべてルイズを抱きしめた。
「いい友達を持ったな、お前。」
「!?」
声の主はサイトだった。気が付くと、いつの間にかサイトがルイズの部屋のドアの前に立っていた。ルイズの目が驚いたような色を帯びて、其方へと向けられていた。彼女の視線が一点で交錯する。そこには大きめのとんがり帽子を被った少年がいた。まったく見覚えがないが、歳は自分達と同じぐらいに見えた。
「ア、アンタ誰!? なんで、ここにいるのよ!?」
[9]前話 [1]次話 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/1
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク