ハーメルン
IF:くまに飛ばされたブルックの行き先がエレジアだった世界
1.Happy Birthday
ざ、ざざ──、ざ……。
「あー、みんな! ……こえて……ないな。よっ……と」
ざ──。
「よし! みんな! ライブに来てくれた人は数日ぶり! そうでない人は久しぶり! ウタだよ!」
サウザンドサニー号の一室。
船大工のフランキーに用意してもらった“配信部屋”にて、ウタは電伝虫に語り掛ける。
ウタが“麦わらの一味”の船に乗ってから、まだそれほどの日にちは経っていない。
だというのに、ウタは既に急転直下の毎日を過ごしていた。
魚人島での、国家転覆計画の阻止や、パンクハザードという酷寒と酷暑の島にて行われていた実験の阻止、そのための海軍との共闘──。
めまぐるしく変わる状況は、一日一日を長く感じさせ、ウタの体内時計ではもうひと月ふた月は経っていそうだった。
ようやく、腰を落ち着けられたので、こうやって配信をする。
「今、わたしは“新世界”に来てるんだ。そう、“偉大なる航路”の後半だね。まだ数日しか経っていないはずなのに、ライブとか配信をしていた時が凄い昔みたいだな……」
電伝虫の向こう側にいるであろうリスナーに向けて、ウタが呟くように語り掛ける。
そうそう、とウタは声を普段のトーンに戻して言う。
「きちんと説明していなかったよね。ライブでも言ったけど、わたし、“歌姫”はいったん休業するね。え、何でって? あちこちをライブで旅して思ったんだけどさ、正直、この大海賊時代ってさ、音楽を自由にやったり聴いたりできる環境じゃないでしょ? だから、もっと自由に音楽に触れ合って、もっと幸せになれる時代を作りたいと思ったんだ」
ウタは指を組んで伸びをしてから、さらに続ける。
「わたしなりにいろいろ考えてさ、“歌姫”をやっているだけだと、そこには辿りつけないって思ったんだ。だから、わたしは今“海賊”、やってます。あはは! 略奪とかは興味ないから! もしどこかの島で見かけたら、声をかけてくれれば一曲歌ってあげるよ! ……ホントだって、信用ないなァ。あ、そうだ、この船にはブルック──“魂王”も乗ってるから、今度またコラボして歌配信をするかもね! お楽しみに!」
そう言って、ウタは椅子から立ち上がる。
「じゃ、今日も歌って行こうか! まずは──」
────
「それじゃあ、またね!」
電伝虫に手を振って、わたしは電伝虫を切った。
久々の配信は、これで終了。
歌っていると、つくづく思う。
音楽は楽しい。もっとみんなが自由に、音楽に触れ合える世界になればいいのに、と。
そのために今、旅をしているんだから、焦ったところで仕方ない。
待ってろよ、“新時代”。
心の中で新時代のイメージ図にビシッと指を向けてみて、ウタはそのシュールさにフフッと笑みを漏らした。
ほんの数年前まで、こんなくだらないことで笑えるなんて思ってもいなかった。
わたしを救ってくれたのは、きっと音楽の縁。そして、幼馴染の縁。
多分、このことを二人に言っても、それを肯定しないだろう。
ブルックは逢うところは音楽の縁だと認めるだろうが、自分が救ったのではないと言い張るだろう。『ウタさんが、自分の足で立って、自分を救ったんです』なんて言葉を言われそうだ。
幼馴染の方は言わずもがな。『おれ、なんかウタにしたっけ?』と、とぼけるでもなく純粋に言われるのがオチだ。
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