そこに、触れてはならない……!
???side
その日、オレはバケモノに出会った。
「ッ、痛てーな」
崩落した地下鉄は粉塵が漂い、瓦礫の山で視界が塞がれている。
おまけに停電して真っ暗だった。
下敷きとなった人間の数は計り知れない。
オレの仲間の数はそれ程ではなかったが、巻き込んだ敵勢力の数が多かった。予想外の遭遇ではあったが、先んじて天井に爆薬を仕込んでいたのが功を奏した。
これで追撃の心配は無いな。
だが、それも時間の問題だ。
いずれ、あの制服のガキ共を使嗾した連中からの追跡の手はすぐに放たれる。
肩や腕に受けた銃の傷が痛む。
ガキのくせに容赦なく撃つもんだ。
そんな感想に独り笑っていると、少しずつ目が暗闇に慣れてくる。
瓦礫の山の間を歩き出し、脱出を試みた。
非常用の電灯がいくつか復活する。
暗いよりは良い。
これで歩きやすくなった。
「ひひっ、それでも大失敗だな」
ふと奇妙な音を聞き咎める。
「あ?」
行く手の瓦礫が、震動していた。
どういうわけなのか耳を澄ましていると、低い地鳴りのような唸り声が聞こえる。
やがて――瓦礫の一部が持ち上がった。
「――逃さん…………!!」
片腕で瓦礫を持ち上げる人影が現れた。
脇には血塗れのガキを抱えているが、その人影は怪我をしているようには見えない。
それを見て、オレは一目で理解する。
バケモノが、現れたと。
藤宮天side
喫茶リコリコは喫茶店だ。
それは外観からも揺らがない事実だと伝わる。
俺だって、ここに来たら裏で危ない仕事も引き受けている場所だなんて予想だにしない。現に常連の方々も、そんな事は知らないだろう。
だが、喫茶リコリコの剣呑な部分を示すような場所はたしかに存在する。
その最たる部分が――地下だ。
そこには簡易的な射撃場が設けられている。
喫茶リコリコを作る際にも、一応はDAの支部の一つとしての機能に欠かせないと、店長が防音に細心の注意を払って建設した。
あの時は、かなりの金を要したな。
俺もその頃に来ていたので、二人で資金について悩んだ覚えがある。
日頃の仕事には研鑽が必要。
実に元訓練教官らしい店長の考えだった。
そこは、今まで我が看板娘が独占しているに等しい射撃場だった。
しかし、今は違う。
現在たきなと千束は、そこで訓練に励んでいた。
後方で俺はそれを見守っている。
「……何ですか、コレ」
たきなが撃ち終えて弾を見る。
赤い弾頭は、明らかに鉄ではない。
特別製の非殺傷弾――いわゆるゴム弾である。常に俺と千束が使用しているものだったが、たきなが手にするのは今回が初めてだ。
「命中率、悪いだろ」
「ふはっ、私も当たんない」
俺の指摘に、たきなが頷く。
隣で撃っていた千束も笑った。
遠くにある的を見れば、正確無比な射撃精度を誇るたきなをして、ほとんど中心の人を模した枠の中から逸脱していた。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/5
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク