順調に行く……ワケ無いよね
千束side
松下さんを連れて、私たちは七夕祭りに来ていた。
中々進まない程の人流で賑わう場所の活気に、たきなも護衛という任があるから周囲に視線を奔らせているも、時折その瞳を大きく見開いている時がある。
分かるよ、私も来た事があるからね。
いつ来ても凄い盛況ぶりだ。
「すごい人混みですね」
「でしょ。美味しい物も沢山あるから♪」
『とても楽しそうな場所ですね』
「ええ!私がしっかり楽しめるようにご案内しますねっ」
観光案内は予想以上に楽しい。
常に敵襲に備える最低限の警戒心を持たなければならない点を除けば、なんとも愉快な任務だ。
それに、横にはたきながいる。
この数ヶ月で、私との連携はバッチリだ。
素晴らしい!
相棒っていう響きだけでも最高なのに。
「依頼じゃなくても、たきな誘って来るつもりだったんだよねー」
「祭り、ですか」
「楽しいよー。たきなも絶対そう思うって」
この祭りには思い出がある。
昔、テンと来たのが初めてだった。
本人は二度目だったらしいけど。
あまり良い思い出じゃなさそうだったな、話すときの顔が暗かった。踏み込んではいけないって、小さいながらに察せられた。
歩き続ける私たちは、路肩に開かれた催し物たちを眺めていく。
その中に射的があった。
そういえば……テンとやった事がある。
たしか、彼はかなりド下手だった。
『弾って、手で投げてもいいですか?』
しまいには血迷った発言もしてたな。
射的なのに投擲ってどういうことよ。
テンもそれなりに銃の腕前はあるのに、実弾以外だと何故か命中率が致命的なレベルで低下する。模擬戦で使用するペイントの弾でも同じ状態になってしまう。
本人は病気だと言っていた。
ふ、因みにリコリスとして訓練された私は普段使いのゴム弾より使いやすくて百発百中なんですけどねっ!
それに、今日はたきなもいる。
店の棚を全部空にするのも造作も無いかな。
「へい、たきな!あれ、やろう!」
「……私たちの腕だと半ば反則なのでは?」
「そんなこと気にしなーい、気にしなーい」
たきなが乗り気ではない。
でも、そんな事は知ったことか!
私はもう、あそこの棚で異彩を放つ可愛いクマのぬいぐるみさんを見つけてしまったのだ。
逃さないぞ〜!
「では、この錦木千束が先鋒を務めさせて頂きまぁす!!」
早速、私は一回分の料金を払って銃を受け取った。
移動中、折れてしまった東京のシンボルの一つ――旧電波塔を見た松下さんが、いつか見ようと娘さんと約束したと語っていた時の暗い感じを吹き飛ばす。
彼に最大限、『今』を楽しんで貰わなくては!
さあ、さあ!
ファーストリコリス様の腕が鳴るぜ!
一頻り祭りを満喫した。
いやあ、射的で無双した後で気分がイイ!
流石に荷物を増やすのは危険だから、商品は周囲で見ていた子ども達に分けたり、店に返還した。
く、任務中じゃなければ、あの人形も…………!
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