リコリスの盾、本領発揮!
夕方になり、客足もそこそこになり始めた。
少しだけ暇になり、俺も厨房で洗い物をしてリラックスしていた時にエプロンのポケットでスマホが震える。
このダァン!という着信音は、特定の相手に設定していた。
俺は嫌々スマホを手にして応答する。
「ハイ、もしもし」
『あ、テン?お泊りセット持って来て。今現在地送るから』
「お泊り?遊んでないで働け」
『仕事だっちゅーの!ストーカー被害……ちょいヤバいのに狙われてる女性の身辺警護。今日は泊まり込みで守る事になったの』
「ならお泊りセット要らんだろ」
『うわー、非モテの反応』
「はぁ!?今カンケー無いだろ!てか、これでも彼女二人は作った男だし舐めんな!?」
『どっちも短期じゃん』
うっせーアホ。
泣きたくなってきたが、命令ならば仕方ない。
それに千束がヤバいと形容する辺り、尋常な仕事にならない予感があるのだろう。まだ全容を把握できてはいないが、危険な上に千束の要請ならば動くか。
ため息をつきそうになって通話中なのに気付いて抑える。
あぶね、愛想良くしとかないと。
「千束、気をつけろよ」
『……うんっ』
まあ、死んでも俺にはメリットがあるけど。
一応心配したら嬉しそうな声で返しやがって。
通話を切って、千束から送信された位置情報を確認する。
やや遠いのでバイクかな。
DAが移動手段用に支給してくれた物である。正直、リコリコの財政的にも危険な任務の現場付近に運んで破損させたくないが、この距離ならば必要だろう。
俺は手を洗い、エプロンを脱いで受付に向かう。
「すみません、店長」
「どうした?」
「千束の要請で、荷物届けて来ます。お泊りセットって押入れでしたよね」
「ああ。移動はバイクか?」
「はい」
「事故に気をつけて行きなさい」
「はいはい。では、いってきまーす……ミズキさん、俺出ますね」
「ちょ、そろそろシフト交代なのに!?」
ドンマイ、ミズキさん。強く生きて。
俺は私服に着替えてから、押入れの注文物を取り出す。
狭い駐車場の片隅に停めてあるバイクを引っ張り出し、俺は荷物を載せて走り出した。
距離にして、およそ十分程か。
メールによれば、たきなと護衛対象が先に帰宅。俺が荷物を届けてから、千束が遅れて合流する予定である。
……新人に任せて大丈夫だろうか。
制服から見ても優秀なセカンドリコリス。
短時間とはいえ単独でもある程度の問題処理は可能だろう。
だが、先日の一件でそれも懐疑的だ。
あの出発前に仕事だと聞いた時の反応。
……あれは何処か、熱意の底に焦燥を孕んでいた。
逸らなければ良いのだが。
暫く走ると、目的地に佇む千束を発見する。
その横にバイクを停めて、ヘルメットを脱いだ。
「お届け物です」
「ご苦労、では私も一緒に運びたまえ」
「いや、ミズキさん死んじゃうから無理」
「運べ」
「えぇぇぇ……」
問答無用で後ろに乗り込む千束。
いや、俺が来る意味があったのだろうか。
「なら、せめてヘルメット付けろ」
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