ハーメルン
喫茶リコリコで看板娘の奴隷やってます
後悔はすぐに……!



 場所を移して、エリカから事の顛末を聞く。
 内容は――あの日の銃取引現場の事件。
 もはやリコリコでは、たきなをリコリコに運んだ複雑な切っ掛けである。
 俺が想像していた事と大方同じだった。
 命令違反はたしかに悪い。
 だが、たきなは誰かを救っていたのだ。
 手段はどうあれ、現にエリカはこの場に生還している。

「テン兄は、知ってるの?」
「詳細は流石に。でも、現場付近まで来て警戒中のリコリス達と一緒にいたな」
「…………」
「だから、俺が知ってたのは銃撃音と状況だけ」

 あの日、俺も警備に当たっていた。
 店長が狙撃ポイントに配置し、俺はその死角を守るように立つ。
 千束はこういった状況への切札として扱われており、現場へと急いでいた。ミズキさんもその退却用の足として近くにはいたのである。
 つまり、あの日にリコリコメンバーは集結していた。
 新しい店員たきなも。

 最初は、たきなをクレイジーだと思った。
 命令違反。
 それも敵を全滅するのに余念が無く、仲間が人質であろうと諸共に処理を断行する姿勢は、如何にリコリスといえど過剰だと思わされた。
 だが、リコリコに加わった彼女の印象が違った。
 少し反応は薄いが、客や店員への気配りができる。
 俺の料理に舌鼓を打ち、よく食べる。
 本当に――ただの子供だ。
 最初の任務ではどうかと思ったが、ウォールナット護衛の件でその性根も理解した。忠実に任務を遂行しようと励むリコリスであり、仲間を撃とうとしたりなどという殺意に身を委ねた子ではないと。

「エリカが人質だったんだな」
「……うん」
「それで、何が辛い?」
「……」

 誰もいない休憩所の端のベンチ。
 そこに腰掛けた俺は、隣で膝の上に固く拳を握って俯く彼女に尋ねた。
 まるで大きな痛みに堪える表情で顔を上げない姿は、見る者にまでその心の傷の深さを感じさせる。

「たきなは私を守ってくれた」
「うん」
「なのに、みんな仲間殺しだって笑って……でも私を守った所為でたきなは本部を追い出されて、だから……私が彼女の為に何かするのが烏滸がましく感じて、怖くてっ……!」
「……そっか」

 ぽろぽろとエリカは胸懐を吐露する。
 よほど誰にも話せず、溜め込んでいたんだな。
 俯いて嗚咽を漏らす彼女の頭を撫でて、俺はどうするかと悩んだ。
 俺が言っても効果は薄い。
 本部からの指示となれば覆せはしない。努力しても、精々たきなの印象を払拭するだけで人事の判断まで影響しないだろう。
 それに、リコリス達にとって正直なところ噂の真偽はどうでもいい。
 話のタネでしかないし、所詮他人事だ。

 俺や千束、たきなを知り想う者がいくら彼女の人間性を説いたところで心に深く刺さらない。

 話を聞いていて何だか、自分を薄情だと言わざるを得ない。
 俺にも発言権無いしなぁ。
 俺が楠木さんからの『あの話』を請ければ多少は変わるかもしれない。
 いや、良い道具にされるのが関の山だ。

「エリカ、それ以上は自分を責めるなよ」
「でも」
「それじゃ助けてくれたたきなに失礼だ。オマエはただ、ありがとうって自分が言える時に言えば良い」

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