第17話 タバサの冒険 タバサと火竜山脈 (後編)
第17話
タバサの冒険 タバサと火竜山脈 (後編)
毒ガス怪獣ケムラー 登場!
鉱山村を破壊したケムラーは、そのまま街道に沿って、この近辺最大の都市に向かって進んでいた。
タバサとシルフィードは、高空からのしのしと草原を踏み潰しながら進むケムラーを見下ろしている。
火竜の群れを全滅させ、タバサの渾身のジャベリンをも跳ね返したこの怪獣に、現在のところ彼女達に打つ手は無かったが、このまま放置すれば奴の進む先すべてが危険にさらされる。
タバサは、街に到達する前にケムラーを倒すことを決意したが、シルフィードはそんな主人の無謀としか言えない決意に、胃が痛くなる思いを味わっていた。
「はぁ。それでお姉さま、戦うのはわかったけど、これからいったいどうするのね。お姉さまの魔法でもあの怪獣には通用しません。お姉さまが玉砕なんて愚劣なことする人じゃないのは知ってますけど、犬死はごめんなのね。きゅいきゅい」
むろん、タバサも無謀な玉砕戦法などとる気は毛頭ないし、こんなところで死ぬ気もない。ただそれでも、今目の前にある状況は、彼女がこれまで数多くこなしてきた怪物退治の任務はおろか、今回の火竜退治の任務をはるかに超える難易度であることは間違いなかった。ただし、同時に『あきらめる』という選択肢も持っていない。上空から、冷徹に澄んだ目でタバサは怪獣の攻略法を探していた。
見たところ、あの怪獣にこれといった弱点は見当たらない。頭部から尻尾の先まで頑強な皮膚に覆われ、比較的薄いと思われた尾の付け根でもジャベリンの直撃を跳ね返しただけに、どこを狙っても結果は同じだろう。
目や口の中ならある程度の攻撃は効くかもしれないが、火竜のブレスに全身を包まれながら無傷だったために、まぶたや口内も相当な強度だと思っていい。また、そんなところへやすやすと攻撃などさせてくれるはずもないし、どうにか傷つけられたとしても致命傷には到底なりえないので、逆上して暴れられたらそれこそ近隣が根こそぎ壊滅させられてしまう。
ここから都市までの距離は残りおよそ十リーグ、時間にしたら三十分ほどしかない。
都市には、すでに鉱山村から逃げた山師達によって怪獣出現の報は入っているだろう。しかし怪獣がこちらに向かっているという情報が裏付けられ、住民全員が避難するには三十分ではとても足りない。
空からはすでに街陰が見え始めている。そして、人間が生活するうえで必ず出る調理や暖房の煙、鍛冶場やパン工場などの煙が立ち昇っているのがいくつも見える。明らかにケムラーはそれらを目指して進んでいた。
「お姉さま、もう余裕がないのね。良い考え浮かばないなら逃げようなのね。きゅいきゅいきゅい!!」
シルフィードが焦ってわめきだした。
タバサはうるさいと思ったが、シルフィードの言うとおり余裕が無いのも確かだ。街に接近された、街に入られた後で戦いを挑んでも、奴の吐き出す毒ガスで街が壊滅してしまう。
また、シルフィードの言うとおり良い考えも浮かばない。ただし思考停止には及んではいなかったタバサは、街道の傍らにあった小さな宿場町に目をつけた。すでに怪獣の接近で、そこの住民は避難しているようだ。
「あそこに降りて」
タバサは先回りして、シルフィードから降りると、シルフィードに上空で待っているように指示して、その宿場町の倉庫に備蓄されてあった暖房用の石炭に『発火』の魔法で火をつけた。
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