birthday
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――2110年12月2日
公安局ビル 41F 刑事課一係オフィス――
狡噛慎也 26歳の冬。
その日はやけに、仕事をこなすスピードが異常に早い。執行官たちが声をかけても、そつない返事しか返されず、不思議そうにする者が多くいたがらデスクの傍らに置かれた荷物を見ると、全員が頬を綻ばせていた。
今朝発生した事件の報告書を、いつも以上に的確に、尚且つスピーディに作成すれば、隣のデスクの宜野座に即送信する。
時刻は17時ピッタリ。
椅子から立ち上がれば、すぐにコートを羽織ると帰る準備を進める。その様子を宜野座はじっと見据えていた。
「……まさか、この報告書を今日中に上げるなんてな」
「当たり前だ。」
「このままケーキ屋に直行か。忙しいな。」
やれやれ、と宜野座は忙しない狡噛の様子に呆れた様子だったが、少しずつ、顔に喜色が表れる。
鞄に書類を詰め込み、傍らに置いていた淡いピンク色の紙袋を手にする。その様子に気づいた執行官たちも、デスクから狡噛を見据えていた。
「おーー、狡噛。そういえば今日だったな?」
椅子の背もたれに、ぐーーっと背を預け、ゆらゆらと椅子を揺らす男、佐々山光留。怠そうに煙草を咥え、帰る用意をする狡噛に笑みを向ける。
「早く帰ってやらないと。きっと待ちくたびれてるぞ。」
その隣で"早く帰ってやれ"と急かすような素振りを見せるのは、征陸智己。
「……今日。そうでしたよね、狡噛監視官。」
一係の執行官として配属されたばかりの美しい顔立ちの女性は、六合塚弥生。
いつもなら残業もなんでも熟す狡噛が、定時に帰る用意をする姿など見慣れたものでは無い。むしろそんな事があれば、同僚の宜野座からガミガミと口うるさく言われるのがセオリーの筈だが、今日は何も口にしなかった。
「悪いな。今日だけは、先にあがらせてもらう。」
身支度を済ませ、全員に視線を向ければ申し訳なさげな表情を浮かべる。しかし、その様子に、むしろ全員が嬉しそうに笑顔を向けていた。
「へへ〜。そりゃ当たり前だろうが。気にすんなよ、狡噛。」
佐々山は咥えていた煙草を灰皿へ押し付けると、ガサガサとデスクから小さな赤い紙袋を取り出す。
「俺も忘れちゃいねーぜ?これ、渡しといてくれよ。」
狡噛へとそれを手渡せば、ニヤッと笑みを浮かべる。すると征陸と六合塚も席から立ち上がれば、それぞれが何か入っている袋を手渡す。
「俺からもだ。最初は一係で折半して何か選ぼうかと思ったが…」
「皆、贈りたいものがバラバラだったから。結局それぞれで贈ることにしたの。」
狡噛に手渡される袋の数々。3つとも、袋の中身はラッピングされている物が入っていると伺える。3人の優しさに狡噛は思わず満面の笑みを浮かべていた。
「…皆、ありがとな。あいつも喜ぶ…」
その様子を満足気に見据えていた佐々山。ふと、宜野座のデスクへと視線をやると茶化すような目を向ける。
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