ハーメルン
帝国兵となってしまった。


 街は赤く日差しではなく、紅蓮の炎で朱色に色づく中で舞う煤や灰、この各国の大使館が揃う大使館通りである表には、いろいろな国籍の人間が集まり、それも各大使館の前ではパスポートを掲げた市民でごった返している。まるでインディアンポーカーか取り付け騒動のようだ。

 「俺が先だ!」「よせ、俺は老人なんだぞ!」「女子供は捨て置け!俺を入れろ!」「男なんて皆殺しにして私達だけでも入れて!」
 いろんな怒号が飛び交うがすべてが醜い人間の様子を表し、大声で叫ぶ人間たちは皆、一様に我先にと塀などにしがみついては周りの人間に引っ張られ引きずり下ろされる。蜘蛛の糸のカンダタの集まりのようだ。これが存在Xに祈りを捧げるという人間の姿なのなら、なるほど存在Xとは人間の写し鏡かもしれない。であるが、人は醜い場所があるかもしれないがよく見れば迷子だろう子供を保護している老夫婦も見える。

 醜さも美しさもまた人だとするならばそれを見ずに信仰が増えた減ったで判断する存在Xもまたシカゴ学派なのだろう。

 その感情の渦の中で特に手続きにこだわる連合王国などは、兵士が集まっている自国民にライフルを向けて銃口によるお話し合いで追い払っているが、帝国の大使館は対照的に全権大使が儀礼用の軍服に身を包み、国籍の確認なしに難民を引き入れている。

 そんなことをする帝国大使館は異様だ。役所役所した他の大使館と比べたとしても、この大使館は破格の広さだがそれでも敷地に集まった人々に対しては土地が少なく、その人々に自らスープを振る舞う全権大使の姿は何か滑稽に見えないこともないが立派だ。

 「隊長、行きますよ。」
 眼鏡の神経質そうな若者、憲兵隊のシュトレーゼマンが急かしてくる。本当は行きたくないんだけどなと思いつつ、明らかこちらの所属が誰が見ても帝国兵だとわかるように皆、マントの様に帝国旗をつけて見せびらかすように、それを明らかにして走る。そして、腕章にも双頭の龍が踊る。そして、頭には儀礼用のピッケルハウベが鈍く輝く。

 繰り出した街にあったものは、瓦礫と悲鳴と混沌がキャンバスに落とされて混ぜ合わされた赤黒い狂気のゴッホの油絵のような残骸の成れの果てを走る。そしてまた走る、子供の泣き声を通り越した鳴き声に、宝珠により視界を強化すれば警官隊が市民に殴り飛ばされ、恐怖で震える若い警官が叫ぶように年老いた警官の静止を振り切り引き金を引き発砲して市民たちと死のワルツを踊る。

 そして、頼みのダキア軍はダキア警察と共に土囊と有刺鉄線で作ったバリケードを大公が住むだろう城の前に展開し、有り合わせの古ぼけた大砲‥‥ナポレオン砲だろうか?それらが対空砲座のように鎮座して、威圧をするが熱を帯びた市民らはそれすらを無視して周りを包囲する。

 火炎瓶を市民が投げたのを皮切りに、ダキア軍の小銃などによる水平射撃の釣瓶撃ちが始まり、市民らはどこから持ってきたのか青銅のカルバリンのようなより古ぼけた大砲や暴走させた馬車をダキア軍に放ち、それが織りなす終末のような景色に神父が必死に祈りを捧げるが暴徒に殴り倒され、その高価そうな服に火を放たれる。

 この世に地獄と鉛玉の雨を表したかのような風景の中に、場違いな貴族の紋章が付いた馬車が動き出し、荷台から機関銃が出てきて集まっていた野次馬もろともなぎ倒す。涙の海に溢れる血飛沫、血と涙のカクテルが大地を満たしてそのしずくを離さない。ここは本当にあのダキアなのか?牧歌的で前時代的な人々の集まりのように感じたが目の前の出来事に怒りを感じた。これでは人に品性を求めるのは絶望的なのか?それでも、なお俺は人は希望や未来に向かい歩み続けれるのを知っている。

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