憑依型カメレオン俳優にも母親だと思われる男子高校生
石杖綱吉が母親の役で参加する舞台の稽古は順調に続いていき、昼休憩に入ると全員で輪になって弁当を食べていく劇団天球の面々と石杖綱吉。
会話をしながら仲良く弁当を食べる劇団天球の面々を見て、優しい顔で微笑む石杖綱吉を見た明神阿良也は「演技してない時も石杖は母親に見えるね」と思わず話しかけていた。
「よく言われますよ。意識していなくても自然と素が母親っぽいらしいですね」
「俺は嫌いじゃないし、良いと思うよ。それが石杖の武器の1つになってるんじゃないかな」
「確かに武器にはなってますね。イメージした母親の役に入るのに特に抵抗がないのも、素がこんな感じだからかもしれません」
「経験を喰って、他人を喰って役作りする俺とはやっぱり違うよね石杖は」
「明神さんの役作りは役者の中でも独特なような気がしますよ。以前、舞台の西遊記で孫悟空を演じる時に、実際の猿から動きを取り入れて完全に獣の動きをしていましたよね」
「猿と一緒に暮らそうかと思ったら流石にそれは止められて駄目だったから、仕方なく間近で猿の動きを観察するだけ観察して取り入れた獣の動きは、孫悟空には合ってたと思うよ」
「明神さんの孫悟空は野生のリアリズム芝居って感じでしたね。西遊記の舞台も大成功してたみたいで良かったです」
会話をしながらも弁当を食べていった石杖綱吉と明神阿良也は、食べ終えた弁当のプラ容器を捨てると、身体を軽く動かしてほぐす。
それから昼休憩も終わりとなり、劇団天球の舞台の稽古は更に続いていった。
家族にとって、まるで太陽みたいな母親を演じる石杖綱吉は、眩く輝くような素晴らしい笑顔で台詞を言う。
明神阿良也と共演する場面でも、太陽のように優しい母親を自然に表現していた石杖綱吉。
読み合わせの段階を越えて、格段に質が向上した明神阿良也の芝居に負けることのない石杖綱吉の芝居に、稽古を見ていた劇団天球の面々は喜んでいた。
芝居をする時、明神阿良也には、心の中で声が聞こえている。
それは劇団天球の皆の声であったり、亡くなった巌裕次郎の声であったりするようだ。
心の中の皆の声が、自分が自分だと忘れさせないでくれるからこそ明神阿良也は芝居に飲み込まれることはない。
現実と芝居の狭間で危うい演技を見せることもなく、自分を見失うこともない明神阿良也は、憑依型カメレオン俳優として見事に役を演じていく。
大袈裟なのにリアルで、動作から感情が伝わってくる芝居を見せている明神阿良也は、以前行った舞台の銀河鉄道の夜を経て、役者として一皮剥けていた。
今までとは比べ物にならない明神阿良也に見劣りすることなく、張り合っていた石杖綱吉という役者を劇団天球の面々が認めていることは確かだ。
優しくてお茶目で、トロピカルフルーツに詳しい母親を演じていく石杖綱吉。
マンゴーやパパイヤにキウイに関する詳しい情報をすらすらと教える母親は、まるで植物図鑑のようである。
太陽のような笑みを浮かべながら母親の役を演じる石杖綱吉が、本当に母親のようだと、この場に居た誰もが思った。
それは明神阿良也も例外ではなく、芝居をしている石杖綱吉が完全に優しい母親に見えていて、それがあまりにも自然だと思った明神阿良也。
まるでそんな母親が現実に存在しているかのように自然で、それが芝居とさえ感じさせない。
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