石杖綱吉と共演者の演技その1
数え切れない程戦ってきた男は、自分をいつも支えてきた母の言葉を忘れることはない。
男が幼い頃に病で亡くなった母が遺した言葉は、両の足に力を込める気力を与えてくれた。
だから今も戦えているのだろうと男は思う。
剣を振るい、放たれる宿敵の拳を弾く。
何度腕を斬り飛ばそうと再生する宿敵を倒すには首を斬り落とすしかない。
男の片眼は既に潰れていて、視界は狭まっていた。
それでも1歩も退くことなく戦い続ける男の背後には護るべき人々がいる。
「貴方はとても強いのですから、誰かを護ってあげなさい」
病床で辛いだろうに顔に出すことなく、布団から上半身だけを起こしてそう言っていた母の言葉を思い出す。
それは確かに男の力となった。
「俺は俺の責務を全うする!」
力強く地を蹴り、素早く間合いを詰める。
突き出した剣が宿敵に突き刺さるが、拳で半ばからへし折られてしまった。
剣の間合いが半減したとしても男は諦めることはない。
拳と剣の打ち合いが続く。
傷ついていく男とは対照的に傷が再生する宿敵は、動きが衰えることはなかった。
満身創痍でも戦い続ける男。
嘲笑う宿敵。
遂に男の腹部を宿敵の拳が貫いてしまう。
だがそれは男の狙い通りでもあった。
最期の力を振り絞り、腹部から左腕を引き抜けないように力を込めた男は、顔面を狙って放たれた宿敵の右拳を左手で右腕を掴んで止めて、半ばから折れている剣を宿敵の首に食い込ませていく。
徐々に断たれていく宿敵の首。
「うおおおおおおおお!」
叫びながら首を断ち斬る剣を進めていく男の剣は、止まることなく宿敵の首を切断して斬り落とす。
男の勝利を祝うかのように日が昇り、夜が明けた。
首を斬り落とされた宿敵の肉体が消滅していき、男の腹部を貫いていた宿敵の腕も消滅する。
腹部から大量の血を流しながら男が地面に膝をついた。
男は宿敵の首を斬り落として倒したが致命傷を受けた男の命もまもなく消えるだろう。
そんな男の前に、幼い頃に亡くなった母親が現れる。
長い黒髪の美しい母親。
それは幻なのか、幽霊なのかはわからないが確かに男には見えていたようだ。
「母上、俺は最期までしっかりとやれただろうか」
思わず母親に聞いてしまっていた男は、戦っていた時とは違う、幼い少年のような顔をしていた。
「ええ、貴方は、しっかりと最期までやり遂げましたよ。よくやりましたね」
誇らしい息子に向けて、確かにそう言った母親は、僅かに頬を緩めて微笑んだ。
あまり母親に褒められたことのない息子だった男は、母親からの褒め言葉が、とてもとても嬉しかったようだ。
ああ、そうか、俺は最期までしっかりとやり遂げられたのだな、そう思った男は、嬉しいことがあった少年のような笑顔で最期の時を迎えた。
笑顔で死んだ男に駆け寄る護られていた人々を映して映画は終わりとなった。
武器を持った少年と、何も持っていない母親が対峙する。
母親は楽しげな笑みを浮かべていて、少年は今にも泣きそうな顔をしていた。
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