天使からも母親だと思われる男子高校生
スターズの天使と呼ばれる百城千世子と共演することになった石杖綱吉は、どんな場面でもリテイクさせたことがない百城千世子と親子を演じる。
当然のように母親の役をする石杖綱吉もNGを出したことはなく、リテイクすることがなかったので2人が登場する場面の撮影は順調に進んだ。
百城千世子にも想定外だったのは撮影が終わった瞬間に天井の一部が落ちてきたことだろう。
避ける間もなく落ちてきた瓦礫からは、異変を察知して事前に素早く動いた石杖綱吉に庇われたことで顔に傷がつくことはなかった百城千世子。
娘を護る母親の役をやっていた石杖綱吉は、母親の格好のままであったが、百城千世子に覆い被さる形で庇い、背中に落ちてきた瓦礫によって負傷したが、百城千世子を護りきった。
「怪我はない?」
百城千世子に笑いかけた石杖綱吉が、本当に娘を護る母親に見えた百城千世子は「お母さん」と言いそうになってしまったらしい。
しかし石杖綱吉の背から落ちた瓦礫に付着していた血液を見て、石杖綱吉が怪我をしていることに百城千世子は気付く。
「石杖くん!病院行くよ!ちょっと誰か救急車呼んで!」
スターズの天使の仮面は破れていなかったが声を張り上げて、固まっていた現場の人々に指示を出す百城千世子。
石杖綱吉が登場する場面の撮影は全て終わっていたのでお蔵入りになることはないだろうが、しばらく休業することになった石杖綱吉は病院に入院することになる。
瓦礫が直撃した背中の打撲と切り傷があり、重傷ではなかったがスターズが全面的に費用を負担するということになったようで、スターズが用意した立派な個室に入院していた石杖綱吉。
百城千世子を護ったことに後悔はないが、この個室は大袈裟な気がするな、と考えていた石杖綱吉だったが、スターズの社長が直々に見舞いにきたことで、この個室に関係者以外が入れないようにする為か、と悟ったらしい。
「感謝するわ綱吉、千世子を護ってくれて」
頭を下げている星アリサに「頭を上げてくださいアリサさん、俺は何も気にしていませんし、全く後悔もしていませんよ」と笑いかけた石杖綱吉は、何も嘘は言っていなかった。
「女優の顔に傷がついたら大変ですからね、俺で良ければ幾らでも盾になりますよ」
真剣な顔でそう言い切った石杖綱吉は、真っ直ぐな眼差しで星アリサを見る。
「貴方は、変わっていないわね」
昔から変わらないどこまでも真っ直ぐな石杖綱吉を見て、星アリサは僅かに微笑んだ。
「千世子が直々にお礼を言いたいそうだから、許可を出したわ。明日見舞いに来るそうよ」
「別に気にしないでも良いんですけどね」
「そういう訳にもいかないでしょう、庇われた本人からすれば女優生命の顔を護ってくれた恩人よ」
「確かにあのままだと顔に瓦礫が落ちていましたね、護れて良かったと本当に思います」
「怪我をしてしまった綱吉には悪いけれど、迷わず千世子を護ってくれる綱吉と共演で本当に良かったと思ったわ」
「まあ、とりあえず、天井の一部が落下してくるあんな現場を選んだ人達が悪いですね」
「何も無しで済ませるつもりはないわ」
冷徹な顔で断言した星アリサの凄みがある声には、確実に怒りが込められていた。
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