一回り歳上に聖母だと思われる男子小学生
背中に傷痕が残ることもなく、全快して退院した石杖綱吉は自宅に向かう。
入院していて不在の間、合鍵を渡して自宅の管理を任せていたマネージャーと鉢合わせになり、掃除をしていたマネージャーを手伝うことにした石杖綱吉。
退院したばかりなんだから休んでいてほしいと思っていたマネージャーだったが、石杖綱吉が頑固なことを知っていたので、諦めて簡単な掃除だけをさせることに決めたらしい。
テーブルの拭き掃除をしている石杖綱吉に、換気扇の掃除をしていたマネージャーが振り返って問いかけた。
「何故百城千世子を庇ったんですか?」
テーブルを拭く手を止めて少し考えた石杖綱吉は、マネージャーと目線を合わせて答える。
「俺以外に天井が崩れかけていることに気付いていた人が居なかったし、俺以外に瓦礫から庇える人が居なかったからかな。庇ったことは後悔してないよ」
目線を逸らすことなく答えた石杖綱吉が嘘偽りを言うことはない。
「貴方が入院することになったと聞かされて、私は心配しました」
自分が思っていたことをはっきりと言葉にしたマネージャーは石杖綱吉をじっと見つめる。
「女優生命とも言える百城千世子の顔を護ったことは正しいことなのかもしれませんが、私は貴方に怪我をしてほしくはありませんでした。他の誰かを犠牲にしたとしても、貴方には無事でいてほしいと私は思います」
マネージャーとしての願いだけではなく、彼女自身の個人的な願いも含まれているそれは、マネージャーが俳優に向けるものではないのかもしれない。
それでも確かに石杖綱吉を大切にしていることだけは、本人にも伝わっていた。
「ありがとう花子さん」
だからこそ石杖綱吉は、マネージャーの山野上花子に感謝をする。
「花子さんが居たから俺は役者になれた」
石杖綱吉のファン第1号であり、かつて石杖綱吉が子役になると決めた理由の人である山野上花子に感謝をする。
山野上花子と石杖綱吉の出会いは偶然であり、2人は山の中で出会った。
8歳の石杖綱吉と22歳の山野上花子が北海道の山の中で出会うことになった切っ掛けは、山野上花子が描いた絵を燃やしていた煙を見た石杖綱吉が山火事かと思ってバケツに水を入れて煙が出ていた場所まで向かったからだ。
石杖綱吉以外に煙に気付いていたものはおらず、山の中で絵を燃やしていた山野上花子と出会った石杖綱吉は「山の中で何やってるのお姉さん」とバケツ片手に山野上花子に問いかけていく。
「絵を燃やしています」と答えた山野上花子に「焼きたいほど気に入らなかったから絵を燃やしてるの?」と石杖綱吉は聞いた。
「そうですね、描くことしかできないから描いてるだけで、自分が気に入る絵を描くことはないと思います。今描いてる絵も、きっと燃やすでしょう」
そう答えた山野上花子が、とても寂しそうに見えた石杖綱吉は、この人を笑わせてあげたいと強く思ったらしい。
寂しそうに見えるこの人を笑わせるにはどうすればいいか考えた石杖綱吉は、幼稚園の頃、寂しそうにしていた女の子が笑った瞬間を思い出す。
ああ、確かお母さんが迎えに来ていた時に、とても嬉しそうに笑っていたな、と思い出した石杖綱吉は、あの時のお母さんを想像していき、娘から見た母親も合わせて表現して演じることにした。
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