スターにも母親だと思われる男子高校生
王賀美陸に石杖綱吉が常に持ち歩いている台本を渡し、台本を読み込む王賀美陸から少し距離を取る石杖綱吉。
「じゃあ王賀美さんは、孫悟空の役でお願いしますね。俺は羅刹女をやります」
王賀美陸に渡された台本は、山野上花子が石杖綱吉の為に書き上げたものであり、いずれ石杖綱吉を主演にして演劇をやる時に使われる台本である。
そんなものを引っ張り出してまで王賀美陸と共演しようと思った石杖綱吉は、俺に興味を持って日本にまできてくれた王賀美さんに応えようと考えていた。
ただそこに立っているだけで人心を掴む、生まれついてのオーラを持つ役者である王賀美陸。
それが母親であるなら、どんな母親であろうとも演じることができる石杖綱吉。
どんな演技をしても王賀美陸は、王賀美陸であり、そのスター性と存在感は失われるものではない。
芝居が上手いというよりかは、芝居が良いと評価される王賀美陸には観客を虜にする力がある。
そんな王賀美陸が、芝居で圧倒されていた。
石杖綱吉の演じる羅刹女は、紅孩児の母親であり、天の風の神という人知を超えた存在だったが、その美しさと恐ろしさを見せつける石杖綱吉は、本物の羅刹女としか思えない演技を見せていく。
大量の冷や汗をかきながら、身体を大きく使った演技を見せる王賀美陸は全力で芝居をしていたが、それでも石杖綱吉には届かない。
スターである王賀美陸が助演すらもできない石杖綱吉の羅刹女は、凄まじい領域に到達していた。
石杖綱吉が演じる羅刹女と対峙しているだけで、凄まじく体力を消耗していた王賀美陸が膝をついてしまう。
それでも王賀美陸は立ち上がり、孫悟空の演技を続ける。
全ての台詞を短時間では覚えることができなかったようで、台本にはない王賀美陸のアドリブが飛び出したが、アドリブにも対応した石杖綱吉は、堂々と羅刹女として振る舞った。
王賀美陸以上のオーラを放ち、凄まじい存在感と演技を見せる石杖綱吉から目を離すことができない山野上花子。
観客が山野上花子の1人しかいない2人の共演は、王賀美陸に体力の限界が来て終わりを迎える。
「俺が助演すらできないとは、綱吉は、とんでもねぇな」
床に倒れ込んで疲れきった様子の王賀美陸は、共演したことで石杖綱吉を気に入っていたが、助演すらもできなかった自分を不甲斐ないと考えていた。
「無理しないで休んでてくださいね王賀美さん」
体力にはまだまだ余裕がある石杖綱吉は、羅刹女を演じた後でもそれほど疲れておらず、王賀美陸を気遣う余裕すらもある石杖綱吉。
そんな石杖綱吉を見て、まだ余裕がある綱吉は全力じゃなかったと確信した王賀美陸。
俺が全力でぶつかっても、まるで揺るぎもしない、こんな役者が日本に居たなんてな、と考えていた王賀美陸は、日本に来たのは無駄じゃなかったか、と思いながら楽しげに笑う。
「綱吉、また今度、同じ役で共演しよう」
床に倒れたまま、そう言った王賀美陸は、石杖綱吉の羅刹女を見ても折れることなく闘志を燃やしている。
「今度は手加減しませんよ、それでもいいですか?王賀美さん」
まるで試すような石杖綱吉の問いかけに応える為に、王賀美陸は震える脚で立ち上がると真正面から言い放つ。
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