1.それまでの世界に別れを告げ[覚醒stranger]
私は何をしていたっけ?
一人、目を醒ました暗闇の中でそう考えた。
…私は、いつのまにか一人の『少女』の中に入っていて。…私はその『少女』を、紙の上の人物として知っていて。
けれど私は、どうしてか干渉することを許されなかった。
感覚だけを共有する形で干渉されることだけを許されたまま、指一本動かすことも、音ひとつ立てることも不可能だった。
すわ転生、いや憑依かと思った私だったけど、こんなに無力な憑依は知らない。こうなる前の私について覚えていることは少ないが、サブカルチャーはそれなりに楽しんでいた。…うん、いわゆるライトオタクというやつだったと思う。
…しかしまあ、彼女とも、彼女たちとも言えるこの肉体の主の事情を考えれば、表出できてしまう方がむしろ問題か…と、私は早い段階で受け入れてしまった。
具体的な年数はわからないが、どうせ死んでしまうのだから。
果たしてその時は来た。
思ってたより…とか、そういうのはあまり無く。そろそろかな、と感覚的に思っていたりした。
彼女は彼と、必然的な邂逅を果たし。
…全身を駆け巡る不快感と、激痛を超越したナニか。
それが、最後の記憶。
「っ…!」
込み上げた吐き気に口を押さえたところで、はたと気づいた。
体が動かせる。
なにしろ前世は出不精どころの騒ぎじゃなかった。体を動かす感覚を取り戻すついでに全身をぺたぺた触っていくと、どうも肉体は前世に近い…たぶんちょっと成長したくらいのものだとわかった。マジか。まさか肉体の所有権がこっちに移るとは。ゴーグルまでついてきてるし。服装は前世に近いけど微妙に違う気がする。とにかく暗いし狭いからわからない。
「………この蓋重たいんだゾ!…こうなったら…奥の手だ!」
それにしても、ここはどこ?と思ったところで、外から声が聞こえた。奥の手?
「ふな゛~~~~~~っ!!」
そんな叫び声と、ごうという音と共に目の前が真っ白に照らされて―――
「あっっつ!?」
「ぎゃーー!?オマエなんでもう起きてるんだ!!?」
突然の真っ白な光と思ったものは青い炎。思わず素直に悲鳴を上げると、目の前に浮かぶ黒猫?が悲鳴を返してきた。
思わず飛び出したけれど、久方ぶりに動かした足がもつれて転んでしまった。顔を上げるとたくさんの棺桶が浮かぶ空間。振り向くと青い炎で燃える棺桶。頭上には燃える耳と三つ又の尻尾を持つ黒猫。
「これが情報量の暴力…」
「オマエっ目の前のオレ様を無視するとはいい度胸なんだゾ!」
「え?あ…っと、可愛い猫ちゃんですね…?迷子ですか?」
「猫じゃねえ!さっさとお前のその服を寄越すんだゾ!さもなk「えっ嫌です」…丸焼きだ!!」
脊髄反射的に拒否したら、さっきの青い炎がまた襲いかかってきて慌てて逃げ出した。
右も左もわからず走り回り、気づけば外に飛び出していた。目に飛び込んできた満天の星空に思わず足が止まる。…ちょうどあの日もこんな空だった。ひと気のない、人目の望めない路地裏で。…あのあと、この身体はただの血溜まりと化してしまったのか。
ふな~っ!という叫び声が聞こえたので、足早にその場をあとにした。
…不快感を思い出しても、もうせり上がってくるものはなかった。
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