第15話 苦い余韻
天高くウマ娘肥える秋の十月末日。府中には十二人の鍛え上げられたウマ娘が集った。
彼女達はこれから盾を求めて死力を尽くすレースをする。そして彼女達を見たいが為に、俺達を含めた万を超える観客が東京レース場に集結した。
観客席を見渡せば、そこかしこにトレセン学園の制服を着たウマ娘の姿が見える。彼女達は大抵店で買った食べ物を持ってて、半ばお祭り気分でいた。
何しろ東京レース場はトレセンの隣にあって、今日は日曜日だ。ある種のお祭りをトレーニングだけで済ますのは、俺達ぐらいの年には拷問に近い。
だから多くのトレーナーはレース観戦も立派なトレーニングと称して、昼からは休みを与えてウマ娘を自由にさせた。
かく言う俺達≪フォーチュン≫も全員レース場に居る。もちろん遊びで来たんじゃない。今日のメインレース秋天皇賞を出走するフクキタ先輩を応援するためだ。
バクシさんがわたあめと格闘して、カフェさんがドーナツを食べているのも、単に腹が減っては戦も見れないから。G1焼きなるアンコたっぷりの大判焼きおいしい。
隣には≪スピカ≫が一緒にいる。今日はゴルシーもゴールドシップさんに振り回されず、チームのみんなでホルモン煮を食ってた。チョイスが女子学生らしからぬが、選んだのはスペシャルウィークさんなので何も言うまい。
少し離れた所には、今年のクラシックを騒がした三人組BNWの姿もあった。皐月賞のナリタタイシンさん、ダービーのウイニングチケットさん、そして先週激闘を制してコースレコード『3分04秒7』と共に菊花賞ウマ娘に輝いたビワハヤヒデさんの三人。レースでは鎬を削り合うライバルでも、勝負から離れたら仲の良い友達か。
特にビワハヤヒデさんは、あの≪ナリタブライアン≫の姉と聞いている。姉妹と言ってどうこう特別な感情は無いが、何となく目が向いてしまう。……チョコバナナを食ってるな。
他に目を向けると、やはり≪リギル≫の姿もある。今月初めに、うちのバクシさんとスプリンターズSで競ったタイキシャトルさんは、ナリタブライアンと豪快に串肉を頬張っている。レースは惜しくも二着に終わったが、その日の夜に寮でバーベキューをするぐらいポジティブの塊みたいな人だ。余談だがスプリンターズSはニシノフラワーさんが優勝して、うちのバクシさんは着外六位だった。
しかし負けたと言えば、先日の京都大賞典は惜しかった。カフェさんが後方から捲るゴールドシップさんに内ラチギリギリからぶち抜かれて惜敗したのはまだ覚えてる。芝が荒れに荒れた内側の際から突っ込んでくるとは思わなった。カフェさんも久々の負けにションボリしてたよ。
今日のレースはその雪辱戦というわけでないが、フクキタさんには昨年以来遠ざかっているG1勝利を得て欲しいとチーム全員が思っている。
ちょうど10レース目のダートOP戦が終わり、いよいよメインレース天皇賞の出走者がパドックに堂々と姿を見せた。
一人一人のウマ娘にそれぞれのファンが声援を送り、彼女達もその声に精一杯応えようとする。
俺達もフクキタさんに声を送り、いつものように猫のぬいぐるみを背負った先輩は元気ハツラツに手を振ってくれた。
「トレーナー、オンさん。フクキタさんは勝てるよな?」
「勝つさ。これまでのトレーニングは無駄じゃない」
「フゥーハハッハッ!!勿論だとも!フクキタルくんはこれ以上ないぐらいに万全だよ!!」
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