ザナックのお見合いと、あるトリステイン令嬢の「疑念」
…まさか、俺がもう一度トリステイン王国の旗の下で杖を振るうことになるとはな。
あの頃の同僚は今、どうしているだろうか?
魔法研究実験小隊の隊員として実戦経験を積んだ俺は、シャン・ド・マルスの練兵場で真剣に杖を振る。
「どうですかな。」
「…良い動きをしていると思うが。」
平民メイジの雇用を主張したザナック王子と、ネルガル教導官が話をしている。
「…あの二人はどうですか?」
「確か、鬼火と土煙だったか?」
「はい。鬼火はトライアングルメイジ…土煙はラインメイジですが、同格のラインメイジ複数人相手に勝利を収めています。」
軌道を変えて標的を襲うファイアーボール。ゆえに俺は『鬼火』と呼ばれている。
『炎蛇』、いや。『白炎』にもまだ勝てない。だが…。
ネルガル・ド・ロレーヌは、メイジの大隊に対して一つの戦術を授けてくれた。
腕利きの『個』を、連携で撃破。数の暴力で押し切る…そういう戦い方を。
スクウェアだろうと、今の自分たちなら敗走させられるはずだ。中の上くらいなら。
地形を利用して各個撃破されなければ、だが。
「他は?」
「夜風は良い動きをしています。水柱も同様かと。」
銀髪で切れ長の目の女『夜風』、金髪でショートの女性『水柱』
女が入っているのは…。まぁ「そういう事」だろう、そう俺は邪推していた。
実際は違ったことを知るのは、もう少し後だ。
「ふむ。ウィンプフェン伯には4人の小隊長が前線指揮を執る部隊であると伝えておけばいいか?」
「4人体制、ですか?」
「問題か?」
「トップは決めておくべきかと。」
「よし。ならば鬼火を隊長にしておけ。私はそろそろ行かなければならん。」
そうネルガル教導官に告げて、ザナック王子は歩き出す。
「どちらへ?」
「見合いだよ。私からウィンプフェン伯に伝えておこう。」
「恐れながら一つだけよろしいでしょうか!部隊名はいかがいたしましょう。」
「我がトリステイン王国は水の国。であれば、水精霊騎士隊(オンディーヌ)が適当だろう。」
王子様が去った。さて、これからが大変だ。
「さて…。聞いていたと思うが。鬼火、お前が暫定的なトップだ。動きが悪ければすぐに交代もあり得るぞ。」
「任せてください。」
望むところだ。隊長職など初めてだが、俺には『炎蛇』というビジョンがある。
あの人と同じにはなれなくても、その領域には近づけるはずだ。
彼は知らない。
魔法研究実験小隊の隊員であり、名簿に細工したであろう『隊長』の背中を見てきた、という所を含めてザナックが隊長に据えたことを。
―――――
美しい金髪をポニーテールに纏めた黒目の少女。その名はルナ・ローゼンクロイツという。
ブドウの産地で有名なローゼンクロイツ伯爵領に生まれた彼女は、何不自由なく育った。
そんな彼女は今、トリスタニアの王城に来ている。
父からトリスタニアに来て、ザナック王子とお見合いしろと言われ慌ててやってきた。
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