第7話『空手家とプロレスラー その2』
愚地独歩さんとの試合の日がやって来た。今日はわざわざ猪狩さんが関係者として俺の控え室まで来ているんだが、どうも独歩さんはそれだけやばい人らしい。
なんでも独歩さんはガチで虎殺しをやったんだとか。……いや、まぁ、正直に言うと俺も出来ると思う。それこそ虎殺しどころかホッキョクグマ殺しでもやれるかも。どこぞの団体がうるさそうだからやらないけどね。
「良意、今日は無理にプロレスにこだわるんじゃねぇぞ」
試合前のエネルギー補給をしていたら不意に猪狩さんがそんな事を言ってきた。
「珍しいですね猪狩さんがそんなことを言うなんて」
「余人なら壊さねぇ様に手心を加える意味でもプロレスをさせてきたが……愚地独歩は別だ。奴は本物の空手家だからなぁ」
徳川の爺様の屋敷で会った時にそれはわかった。拳を始めとして各部位の部位鍛練を怠っていないのも直ぐにわかった。もしかしたら打岩も出来るかもしれない。
そして猪狩さんがこう言う程に危険な人なんだろう。けど俺はプロレスラーだ。だからこそ出来る限りプロレス的に戦いたい。
真剣勝負を……本気の戦闘を否定するつもりはない。だが見ている人達を楽しませるという一点においてはプロレスに勝る格闘技は無いと思っている。
何よりも俺自身が楽しいんだ。プロレスが。
「まぁ、なんだ。そんなわけだから、ファイトマネー分は楽しんでこいや」
やれやれ、プロレスにこだわるなって言ったのに楽しんでこいか……この人に拾われて良かったな。
さてエネルギー補給も終わったし、ちょっと仮眠をしたらアップを始めるかなっと。
そうしてやって来た試合時間、地下闘技場に入場してファンサービスのパフォーマンスをしていると不意に背中が重くなり、首に何かが巻き付いてきた。どうやら愚地さんが試合開始の合図の前に仕掛けてきたようだ。
いいね、とてもプロレス的じゃないか♪
けど愚地さん、チョークスリーパーは良い選択とは言えないなぁ。
打撃、投げ、絞め、極め、これらあらゆる攻撃を『受ける』のがプロレスラーなんだ。
だからね……打撃の人の絞めで落ちるほどプロレスラーの首は柔じゃないよ。愚地さん。
俺は何事も無かった様に散歩でもするかの如く闘技場の中央に歩いていく。そして中央に辿り着くと後頭部に衝撃が走った。おそらく頭突きでもされたんだろう。
振り返ると愚地さんが足刀での横蹴りを喉に放ってくる。容赦ないねぇ。もちろんこれも受ける。するとこの一撃を皮切りに愚地さんのラッシュが始まった。
下段蹴り、腹への足先蹴り、胸や腹への正拳突き連打に上段回し蹴りと全て受ける。
うん、痛いな。地下闘技場で戦った人達の中でも断トツで痛い打撃だ。けど師父程じゃない。あの人の『消力』を使った打撃はシャレにならないからなぁ。
そんな事を思いながら受けていると、ふと違和感を感じる。なんだろ?
ジッと愚地さんの打撃を観察しているとその違和感がわかった。
なるほど、『正拳』が合っていないんだ。
その事を指摘するか少し迷った。俺みたいな若造が言う事じゃないかなって。
けどそれもプロレス的かなと思うので言ってみようと思う。
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