ハーメルン
Q.これはガンダムか? A.ガンダムです
15/『魔女』と束の間の日常

 ――かん、こん、かん、こん、と、活気溢れる建築音が鳴り響く地球寮にて――。

「……なるほど、『私』が留守の間にそんな事が――災難でしたね、スレッタさん」

 自身が留守の間に起こった――スペーシアン系列の女生徒2人の授業妨害に「とても遺憾です」と言わんばかりの表情で、『彼』は自身のスマホ型生徒手帳を超高速で操作し始める。

「……聞くまでもない事だけど、何してるの?」
「その二名を推薦した企業への融資及び取引内容を全部無効にしているだけですが?」

 ミオリネはジト目で「やっぱりか」と呆れ、またしても何も知らないスレッタは「え? ……ええぇ!?」と驚愕する。

「……大人気ねぇ、其処までするんかよ……」

 そのいけ好かないスペーシアンの女生徒をぶん殴った張本人――地球寮に所属するパイロット科1年のチュアチュリー・パンランチすらも、その容赦の欠片も無い対応にドン引きする。
 世間慣れしていないスレッタは事の重大性を理解してないだろうが、これは企業の推薦でアスティカシア高等専門学園に入学した生徒にとって、死刑宣告より重く恐ろしいものである。

「殴られたらちゃんと殴り返してやらないと、うちが無抵抗主義だと勘違いさせてしまいますからね。割りと大切な事なんですよ。――彼女達を推薦した愚か者共には見せしめの為にきっちり責任取って貰いましょう」

 ベネリットグループの上位企業に連なる『アナハイム・エレクトロニクス』にとっては幾らでも替えの効く取引相手だが、逆の立場の木っ端企業にとっては死活問題以上の緊急事態である。
 その影響力を考えれば――社員全員が路頭に迷いかねない、最悪の事態であるのは簡単に想像付くだろう。何せ、今の『アナハイム・エレクトロニクス』は――。

「――責任を取るという事はですね、痛い思いをする事なんですよ。大人なんですから子供の尻拭いは当然してくれますよねぇ?」

 各企業には『アナハイム・エレクトロニクス』が現在のホルダー、水星からの転入生、スレッタ・マーキュリーを擁護しているのは周知の事実だが、生徒達には若干浸透していない。……前の決闘での『地盤崩し』が『誰』の仕業なのか、簡単に想像付きそうではあるが。

「……しかし、良くぶん殴るだけで我慢しましたね、チュチュ先輩」
「……あぁん? 何が言いたいんだよ? 『社長』さんよォ――」
「MSで踏み付けて威嚇射撃くらいは許されるかと」
「いやいやこの『社長』過激すぎだろ!?」

 生徒でありながら上位企業の代表という、誰からどう見ても『見える地雷』でしかない『彼』を全力で回避する事はアスティカシア高等専門学園の常識であるが、その『彼』の感性が非常識そのモノであるのは余り知られていない。……何せ、学園では特定の人物を除いて全く交友関係を築いてないから、発覚しようがないという二重の罠である。

「逃げ惑う姿を見て『ざまあないぜ!』って嘲笑ってやるのが礼儀ですよ!」
「何処の世界にそんな礼儀があるんだよ!? 性格悪すぎだろ……」

 何の因果か、そんな『見える地雷』と関わり合う事になり、自寮に居座らせてしまった地球寮の面々は正直泣いて良い。……なお、何気に居座っているミオリネには、もう誰も突っ込まない。

「そ、そそそその、『アナハイム』さん! お、おっ、お騒がせ、して、すすすすすすみません!?」

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