ハーメルン
Q.これはガンダムか? A.ガンダムです
02/『魔女』と神の写身





「『アナハイム・エレクトロニクス』代表、『月』出身、先代は5年前に不慮の事故で死去、社を受け継いだ『彼』は社名を現在のものに変更、社名の由来は不明。たった1年余りで頭角を現し、ベネリットグループ内の上位企業に名を連ねるに至る。その破竹の勢いは新興ながら『御三家』に迫るものだが、最近の『ガンダム』騒動で営業実績は上下激しいものとなっている」

 ――例の『彼』は、ベネリットグループの企業の中で唯一、学生の身分でありながら一企業の代表となっている傑物である。

 その実績は内外に知られており、誰も『彼』が代表である事に異論を挟まない。――唯一、挟む事の出来た人物は公式的には事件性の無い事故で亡くなっており、既存の既成概念に縛られないハチャメチャなワンマン経営は表向き上手く回っているように見える。

「現在のホルダーであるグエル・ジェタークとは十数回に渡って決闘し続けるものの、全て不成立となっている。実質全試合圧勝しているだけに――ホルダーの座に興味が無い?」
『或いはジェターク社と最初から結託しているかだ。そちらの方が自然だろう』

 毎回敗北する度に全力で悔しがっているグエル・ジェタークの姿を見ているだけに「当の本人がその裏取引を知っているかは別の話ですがね」とグラスレー社CEOの養子、シャディク・ゼネリは苦笑する。

「そして披露される技術は既存の技術系統とはかけ離れた異物が多く、特に――」
『――『GUNDフォーマット』由来ではないのにそれに準ずる類似品が極めて多い。繋がりを疑うなという方が無理があろう』

 今回の次世代群体遠隔操作兵器システムがもろにそれであろう。
 ……しかし、少しだけ気になるのは、幾ら『数の暴力』を実現出来るシステムだとしても所詮は一戦場を左右する程度の戦術級、戦況を一変させる戦略級を自称するのは『彼』には珍しい過大広告だった。
 しかし、『彼』の性格を考えるに、過大評価を広げるよりも察知したら怖い真実を何気無く告げているだけの可能性の方が高く――思考が若干ズレた。要するに、義父が言いたい事は――。

「オックス・アースの亡霊、ですか……亡霊程度で済めば良いのですがね」

 どうにも、シャディクはその程度の脅威ではないと薄々感じている。
 『彼』は正真正銘、万能の天才だ。神は『彼』に一物だけじゃなく百物ぐらい与えており、あらゆる分野のトップを独走出来るほどの才能の化け物が『彼』という人間だ。
 本当に『彼』が一人の人間なのかさえ疑わしく、特化型の天才百人を一つに統合した末に出来た『人の形をした何か』という方がまだ納得出来るだろう。

「――探りますか?」
『いや、迂闊な行動は取るな。撒き餌に態々食らいついてやる義理もあるまい。……デリングの黙認も不可解だからな』

 そもそも『ガンダム』と疑わしきMSを十数回に渡って開発して無事に済んでいる時点で何かがおかしい。
 普通に考えるなら一回やった時点で問答無用で粛清されて然るべきである。かつての『ヴァナディース機関』のように――。
 まだ子供だから、という免罪符は『彼』と相対した事のある者にとっては有り得ない選択肢である。

「……撒き餌、ですか。本命は一体何になるやら?」

 背筋に薄ら寒いものを感じつつも、シャディクは面白いと断じる。『彼』の起こす騒動は見ていて飽きない。

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