04/『魔女』と炎の戦乙女
「これはこれは、審問会以外で出遭うとは珍しいですね、ジェタークCEO。ご子息には日頃から大変お世話になっております」
「ふん、皮肉か?」
「いえいえ、本心からですとも。息子さん、良いセンスをお持ちで。我が社のテストパイロットに招きたいぐらいですよ」
とある総会――いつもの『審問会』にあらず――の帰り、ベネリットグループの御三家、ジェターク社をその剛腕で纏め上げるヴィム・ジェタークは一瞬たりとも同じ空気を吸いたくない『因縁の人間』とばったり遭遇してしまう。
――あの『アナハイム・エレクトロニクス』代表、自分の息子と同じ年齢ながら何もかもが異次元の怪物、公認同然の『魔女』――。
「良く言う。……貴様に壊されたMSの修理代、ただでは無いのだがな」
「これはこれは申し訳ございません。ブレードアンテナだけを叩き折れたら良いのですが、何分最近は更に出来るようになってましてね、将来が本当に楽しみですよ」
この得体の知れぬ『魔女』と契約を結ばざるを得なかったのは一生の不覚であり、されども齎される利益は被害額を遥かに上回るだけに切るに切れないあたり性質が悪い。
企業家としての理性は『彼』との関係をもっと深めるべきだと確信しているが、生物として根源的で生理的な嫌悪感はいつまでも拭えない。
「決闘での損失は本来考慮すべき事では無いのですが、そうですね、ジェターク社とは長年の『お得意様』ですし、何かしらの『便宜』でも如何ですかな? 私と貴方の関係です、気兼ねなくどうぞ」
何よりも一人の男、いや、一人の『親』として徹頭徹尾、気に食わない。
「ならば――」
「いい加減、諦めたらどうですぅ? グエル先輩じゃ相手になりませんって。見苦しいを通り越して滑稽ですよ」
決闘委員会の一人――嫌味を言う事にかけては右に出る者はいないとまで評される――ブリオン寮に所属する経営戦略科2年、セセリア・ドートはこの上無く憎たらしい笑顔で、無言で歩くグエルを煽る。
その腹立たしい顔など見るまでもない、とグエルは振り向く素振りさえ見せずに前に進む。
「それはそうと親が偉いと良いっすよねぇ、決闘での負けを何度でも帳消しにしてくれるんですからぁ、羨ましいなぁ。――『先輩』とはそういう契約なんでしょ? いやぁ、大人っすねぇ、汚い汚い」
……それは、薄々勘付いていた事だった。『ヤツ』は必ず決闘を不成立にさせるように立ち振る舞う。
十数回に及ぶ決闘は全て『ヤツ』が圧勝していながら全て不成立になったのは――おそらく、いや、確実に自身の父との何らかの取引があるからだろう。
――あの父が、決闘で敗北したのに関わらず、唯一度も叱責しなかった。会社の威信に泥を塗ったのに関わらず。
余りにも解り易く、同時に余りにも覆しようのない証明完了だった。
「皆が影でグエル先輩の事、何て呼んでると思いますぅ? ――親の権力のみで成り上がった『仮初めのホルダー』ですって! 考えたヤツは良いセンスしてますよねぇ! あっはっはっは!」
返す言葉も無く、無言で通り過ぎる。いつのまにかセセリアは居なくなり、思い詰めるグエルの傍らには同学年だが実の弟のラウダ・ニールが立っていた。
「……兄さん、今回の決闘は惜しかっ――」
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