08/『魔女』と悪魔の契約
「……今日のMSは、何というか、凶悪なフォルムだな……」
今回の『ヤツ』のMSは、随分と刺々しい。獰猛な猛獣を思わせるような鋭い鉤爪を両手両足に装備しており、目に見える武装は無骨なまでに巨大な超大型メイスのみである。
……決闘のレギュレーションで、パイロットの命に係わる危険な質量兵器の使用は基本的に禁止なのだが、あれ、どう考えても引っかかるどころか超過している疑惑のある凶器ではないだろうか?
『――まぁ今回は外面だけだね。中身は、うん、『阿頼耶識システム』は個人的に好きじゃない。自分の体に機械埋め込むのは激しく抵抗があるし、光が逆流する気しかしない』
……非常に不穏な事を言っている気がするが、敢えてスルーする。
決闘する前から精神的に疲れていては勝ちようがない。
「また近接特化で射撃兵装無しか。絶対付き合わねぇぞ」
『前回の『エピオン』の時の教訓は、それはもう是非とも存分に活かすべきだと思わないかい? ――逆転の発想だよ。相手の戦術選択肢を近接限定にすれば万事解決よ!』
「はぁ? 何言ってんだ?」
そんな見るからに接近戦凶悪そうなMS相手に近寄る訳が無いだろうに。グエルはビームライフルの砲身が焼き付くまで引き撃ちする気満々だった。
『試しにビームライフルを撃てば理解出来るさ。――止まった的ぐらい百発百中出来るっしょ? 前とは違ってさ』
「――言ったな。動くなよ……!」
確かに最初期の頃は精密射撃の精度と集弾率が悪く、『それ牽制なのかい? 外した時の言い訳としては便利よねぇ!』と何度も煽られては青筋を立てたものだ。
『ヤツ』のMSの頭部に狙いを定め、即座にビームライフルを撃ち放つ。
当たる前から確実に当たったと確信し――ビームが『ヤツ』のMSの頭部に着弾し、その瞬間、四方八方に四散して消失する。
「完全に弾かれただと……!?」
まるでコロニーの対ビーム壁に撃ち込んだかの如く手応えであり――当然の事ながら、『ヤツ』のMSは無傷だった。
『――決闘用に調整されたビーム出力じゃ百発当たっても塗膜の剥離すら起こらんよなー』
この異常なほどのビーム耐性を目の当たりにしたグエルは即座にビームライフルを投げ捨ててパージする。牽制にもならない豆鉄砲を持ち続けるなど無意味の一言だ。
かと言って、ビームサーベルも通用する気がしない。『ヤツ』のMSの装甲を切り裂く前にあの超巨大メイスで薙ぎ払われるがオチだろう。
こうなると、一番の有効打はディランザの重MSとしての特性を生かした蹴撃ぐらいしかなく――。
――『ヤツ』は超巨大メイスを徐に投げ放つ。ちょうど、ディランザの足元に突き刺さるように。
『それを使うと良い。決定打が何一つ無いんじゃ決闘が映えないしねー』
「あぁ? テメェの方のMSも武器無しになるじゃねぇか!?」
『やだなぁ、武器なら幾らでも転がってるじゃないか』
そう言って、『ヤツ』のMSは決闘場周辺に乱立する廃墟の――一際巨大な鉄柱にその手を強引に突っ込んで。
『――不明なユニットが接続されました。システムに深刻な障害が発生しています。直ちに使用を停止してください』
今まで聞いた事の無いシステム警告音が『ヤツ』のMSから生じ――あろう事か、根本から引き抜き、巨大な鉄柱を豪快にぶん回す。
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