09/『魔女』
その『暖かな光』は、何もかも優しく包み込みながら――全てを拒絶する。
「――、こち――へ! ――ッ!」
最期まで共にありたいという気持ちすら押し流して、正体不明の力の本流は昏き宇宙の闇を照らす。
「――、――ッ! ――ッッ!」
最後まで『アクシズ』にしがみつき、必死に叫びながら『彼』に手を伸ばす。
されども、想いは届かず、無情に弾き飛ばされて――最後の最期に、『彼』の遺言を聞き届けたんだと思う。
――通信記録は無い。音声データからは自分自身の、言葉にならない叫び声しか記録されてなかった。
だから、それは『彼』との、最初で最期の『共振』だったんだと思う。
それがどんな言葉だったのか、今となっては思い出せない。とても、とても大切な言葉だったのに、記憶が霞んで思い出す事が出来ない。
――それを受け止めてしまえば、『彼』の死を認めてしまうから。
誰よりも目の前で、『虹の彼方』に消え去ってしまった『彼』を、もうこの宇宙の何処にも居ないのだと認めてしまうから、硬く固く堅く、記憶を鎖す――。
宇宙世紀0093年3月12日、『第二次ネオ・ジオン抗争(シャアの反乱)』は、後に『アクシズ・ショック』と呼ばれる奇跡と共に幕を閉じる。
「――ねぇねぇ、おじいちゃんって『ニュータイプ』なの?」
「いいや、おじいちゃんはね、『ニュータイプ』の『成り損ない』だよ。モノを動かすのは得意なんだが、他の人の想いを受け取るのは苦手なんだ。それに従来の考えを改める事も出来ないしね」
それを聞いた孫娘(血は繋がってない)は「そうだねぇ、おじいちゃん、頑固者で向こう見ずで話を聞かないもんねー」と、にへらぁと笑う。
無邪気で害意が欠片も無いだけに、逆に深く傷付く。絶対顔を引き攣らせているよ、これ……。
「それじゃあの『人』はぁ?」
「あの『人』こそ真の『ニュータイプ』だよ。――でもね、『彼』は『神様』ではなく『人間』だったよ。人より優れた感性を持っていても、『人間』である事には変わりないんだ」
孫娘は首を傾げて「そうなんだぁ……良く解らないや」と不思議そうに呟く。
「おじいちゃん、私も『ニュータイプ』になれるかな?」
「ああ、人は誰しも『ニュータイプ』になれるよ。――『誰か』の事を思い、『誰か』の事を知ろうとすれば良い。とても簡単な事なんだ、とてもね――」
――そんな至極当たり前で、簡単な相互理解すら、私達『人間』には出来ないのだけどね――。
「――どうして」
『刻』が見える。これが『虹の彼方』、人類の革新たる『ニュータイプ』が行き着く果ての果て、全ての希望が此処にあり、何もかも輝いて見える。
「――何故」
此処では時間は意味を持たず、全ての因果が集い、永劫不変に微睡んでいる。
かつての宇宙での悲劇も惨劇も狂乱劇も、別離も死別も喪失も、此処に辿り着く為の道筋と対価であるのならば、全て受け入れ――。
「何で、何処にもいないッッ!?」
『――宇宙世紀0217年』
――目が覚めても『悪夢』が繰り返される。
眠っても起きても『悪夢』のままなら、その境界は無いに等しく、逃れる術無く心が削られていく。
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