ハーメルン
時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)
Dreieck Amethyst~悪魔は少し安堵した~

冬の澄んだ空気を噛みしめながら、美樹さやかは両手を伸ばし気持ち良さそうに声をあげた。背延びまでされて相方が更に大きくなったのがご不満なのか、黒髪の女性は上目遣いで、ちらりと蒼い髪の友人を睨む。

「ずいぶんご機嫌ね」

軽やかに嫌みが出るのは、彼女も少し浮ついているから。その証拠に、恐ろしいほどの美貌の持ち主である彼女の白磁の肌はほんのりと頬の部分だけ紅潮していた。

「まあ、そりゃあね、こんないい天気だし」

それに…と言って、黒髪の美女を見て笑顔を浮かべる。

「あんたとこんな風に街を歩くなんて久しぶりじゃん?」

「…そうね、そう言われれば確かにそうだわ」

いつもはどちらか一方が真夜中に日常とかけ離れた状態でどこかの路地裏を歩き回ったり、また、あるいはこの手のかかる蒼い髪の友人を自分が「抱っこ」して空を翔んでいるのだと黒髪の女性は考えた。
そうして彼女はアーモンド形の目を細め、小首をかしげる。長い睫毛がアメジストの瞳をうっすらと隠す。そうして、何か思い出したのか、それとも忘れたのか。ふう、とため息ひとつついた。と、急にひゅう、と冷たい風が、彼女の艶のある黒髪を揺らす。右手で髪を押さえながら、彼女はさやかを見上げた。

「最後、貴方と出かけたのはいつだったかしらね?」
「え、ちょっとちょっと!ほむら、嘘でしょ、思い出せないほど?」

いくらなんでもひどすぎるわ、とさやかが友人に抗議した途端、彼女は吹き出した。クスクスとさも楽しそうに笑う。

「もう…馬鹿ね、冗談よ」

アメジストの瞳を面白そうに輝かせながら、口元をほころばせる。
随分と彼女は表情が豊かになったものだ、と美樹さやかは見惚れながらに思った。


――ねえ、ねえ、あんたもうちょっと笑った方がいいって!
――どうして?なんのメリットがあるの、それ?
――――え、

あれは確か大学に入学した頃、ゼミの勧誘やら、オリエンテーションで学生達がこぞって集まった時だ。あまりの美貌に、あの場所にいた者達すべてが暁美ほむらに注目していた。好奇、羨望、欲望、あらゆる感情を込めた視線が彼女に注がれ、実際に行動に出た学生も数え切れないほど。それを彼女は100人斬りと言わんばかりの勢いで「無表情」「無関心」「歯に衣きせぬ辛辣な言動」で斬って捨てて行った。
さすがに「これはいけない」と心配した蒼い髪の友人は先ほどのアドバイスばりな発言をした訳だが…

――メリットねえ…あ!

その時さやかは自分が何故そう思ったのか答えた。

――私が嬉しいからよ、だって…

あんた笑うと可愛いしね

――――気持ち悪いわ、絶対に笑わないから一生――
――ちょっと、ちょっと待ってよ!ほむら!

その時の黒髪の友人は、足早に講堂へと向かって行った。頬を紅潮させながら…

まあ確かに私も一言多すぎた(少なすぎた?)が…思えばあの時彼女は照れていたのだろう。
でも、そう言えば、彼女がこんな風に笑うようになったのはいつからだっただろう?

「どうしたの?」
「え、あ…」

過去に思いを馳せ、思わず口元を綻ばせてしまったのだろう、黒髪の友人が眉をひそめて、さやかを上目遣いに見ていた。思わず口元を押さえるさやかを凝視しながら、はあ、と美貌の友人はため息をついて。

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