ほむらお腹がすく
「ん…いったあ」
頭を抑えながら、美樹さやかは身体を起こした。
床の固い感触に顔をしかめながら周囲を見渡すと、傍のベッドがある。どうやらベッドから落ちたらしい。蒼い目をぱちぱちと数回まばたきさせて、彼女はようやく状況に気付く。
「なんなのよ…まったく」
タンクトップ一枚で寒いのか、う~と唸りながら自分を抱きしめ腕をさする。
そうして立ち上がると、ふと、ベッドの中央ですこやかに眠っている恐ろしいほど美しい黒髪の友人が目にとまる。この家の主である彼女は規則的な寝息を立てていて。
「う~一人だけ気持ちよさそうに…」
そう呟くと、またベッドに這い上がり、友人の元へすり寄った。友人の艶のある黒い髪がシーツに広がっているので、気をつけているのか、さやかはゆっくりと近づき、よいしょ、と友人に巻きついているシーツの片方を奪い取ると自分の身体に巻き付けて、
器用に潜り込むように寄り添う。
「つめた…」
そう呟きながら、さやかは気持ち良さそうに目を瞑る。友人の身体は人外であるためか、それとも元々体温が低いからか、ひんやりとして冷たい。時折は、温かくなることもあるが、そんな時は大抵、彼女を怒らせた時かそのあげくに「お仕置き」されている時だ。
「ん…」
さやかの気配で目が覚めたのか、黒髪の女性の目がうっすらと開く。長い睫毛の下のアメジストの瞳がしばらくゆらゆらと所在なげに揺れ、そうして、背後のさやかへ向けられる。
「…何…もう朝…?」
「あ、ほむらごめん起こしちゃった?」
ん…と大きくため息をつきながら、ほむらはゆっくりと身じろぎして、さやかの方へ振り向いてしなだれかかってきた。体温の低い彼女はむしろ蒼い髪の友人の体温の高さが心地よいのか、まるでこたつにいる猫のように目を細めて囁いた。
「気にしてないわ」
「そう…」
さやかも囁くとそのまま眠りにつく。
と、数秒ほどしてほむらがまた口を開いた。
「さやか」
「…何?」
「お腹がすいたわ」
一瞬、きょとんとさやかが不思議そうな表情を浮かべた。そうして、破顔した。
「ふふふ、あんたでも子供みたいな事言うんだ」
「…」
「でもさあ、夜中に食べるのはあんましおすすめしないよ?だって太…あいたっ」
ぱちん、と軽やかな音が立った。
さやかの額をほむらが叩いたのだ。
「あきれ果てるくらい馬鹿ね貴方」
「はあ?…なんでって、ちょ…」
そう言いながら、ほむらはまたしなだれかかり、目を瞑る。少し不機嫌なようだが、眠りについた。
なんなのよ…そう思いながらもさやかもまた眠りについた。
* * * *
「あいったあ…」
「またベッドから落ちたの貴方?」
「うん、そうなのよ、どうしてこう寝相が悪いんだか…」
朝、テーブルを囲んで食事しながら、さやかは痛そうに顔をしかめながら言う。蒼い髪には寝ぐせ、タンクトップ1枚に、口にはパンを咥えたままと、大人の女性にしては行儀が悪い。そんな様子をあきれ果てたように見つめるほむらもまたキャミソール一枚というあられもない姿なのだが、こちらは優雅にコーヒーを飲んでいるせいかあまり行儀悪く見えない。陽光に照らされて心地よいのか、二人は比較的穏やかに会話を進めていた。
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