ハーメルン
時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)
トライアングル

淡い桜色の髪をした少女が暁美ほむらのところへ駆け寄ってくる。

「ほむらちゃん」

いや、もう少女ではない、彼女ももう立派な大人だった。目を細め微笑むほむら。

「久しぶりね、まどか」

<トライアングル>

コーヒーカップを両手で持ちながら、鹿目まどかはそわそわと周囲を見ている。
その様子は庇護欲をそそるものであり、ほむらもまた例外ではなかった。

「どうしたの?」
「え、あ、う、うん・・・」

ニコ、とまるで子供のように微笑むと、こくりとコーヒーを一口飲み。まどかはふう、とため息をつく。
昼下がりの喫茶店は、人も少なく、ほむらとまどか以外はほんの数人しかいない。
静寂な空気と穏やかな明かりは人外であるほむらの心にも安寧を与えてくれる。
・・・ここまで穏やかになれたのは久しぶりだ・・とほむらは思った。
きっと、これも目の前にいる愛しい子のせいなのだろう、そっと目を伏せる。

「綺麗だね」
「え?」
「ほむらちゃん」

長い睫毛の下の憂いを帯びた紫の瞳が、愛しい子に向けられる。桃色の髪をしたおどけない女性は少し顔を赤め微笑む。

「そんなことないわ」
・・・綺麗なのは貴女
「ううん、とっても綺麗だよ、それにみんなも見てる」

まどかは窓へ顔を向ける。無邪気な横顔にほむらは微笑むが、まどかに合わせて視線を窓の外に向けると、小さくため息をついた。往来する人々が時折こちらを見ているのだ。好奇な目でほむらの美貌に見惚れている。艶のある黒髪、白磁のような肌、そして憂いのある紫の瞳、恐ろしく彼女は美しかった。

「みんな・・目が曇っているのよ」

そう言って、テーブルで頬杖をついたまま、ほむらは身体を前のめりにして、まどかに近づく。長い黒髪がテーブルに垂れ、華奢なボディラインのシルエットが「く」の字に曲がる。

「ひゃ」

顔と顔がかなり接近した状態でほむらは囁く

「貴女の方が綺麗よまどか」

ほむらが世界を改変してから10年、皆それぞれに成長し、思い思いの人生を歩んでいる。不安定なまま・・・

「それでね、タツヤが・・・」

とても楽しそうに笑いながら、彼女は自分の周囲に起きた出来事を事細かにほむらに語りかける。目を細めるほむら。温かい日が射す公園で、二人はどこに行くともなく散策している。夢だとも思える時間、ほむらの目の前に成長した愛しい子がいる。薄いピンク色のワンピースが木漏れ日を浴びて、伸びた桜色の髪は風にそよぎ・・・・

「・・・・ねえ、ほむらちゃん」

白いベンチに腰掛けて、彼女は言った。

「さやかちゃんは・・・元気?」



『ねえ、あんたはまどかのために世界を変えたんだよね』

蒼い髪の少女は黒髪の少女に話しかける。
返事をする黒髪の少女。
重なる空のような瞳とアメジストのような瞳。

『じゃあ、あたしもまどかを守る。だから・・・・』

手を差し出す蒼い髪の少女、そして・・・


「・・・ええ、元気よ」

絞り出すような声。まどかの穏やかな目がほむらを捉える。そっか、と小声で囁いて。

「ほむらちゃんなら・・いいと思ったんだ」

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