ハーメルン
とある一般聖兵の日常
1話

この日ユーハバッハは腹心にして星十字騎士団最高位のハッシュヴァルト、同じく忠臣にして「J」の聖文字を与えられた星十字騎士キルゲ・オピーを連れ視察より帰還していた。
彼が皇帝を務める「見えざる帝国」はかつて死神のよって滅ぼされたとされる滅却師が隠れ住む、死神たちの本拠地「瀞霊廷」の陰に存在する場所である。
其処を統べるユーハバッハは先月ついに星十字騎士団を全員決定し、現在は彼らを含めた一般の滅却師兵たちの習熟に勤めている。
今回もそういった兵たちの鼓舞や反抗勢力の鎮圧などのため各地へ視察に赴いていた。

(本音を言えば一般の聖兵以下など何の助けにもならんだろうが・・・相手はあの山本元柳斎重國だ。油断はならない。)

ユーハバッハはかつて山本元柳斎重國に敗北した苦い経験を思い出し、気を引き締める。
現状でもほぼ100%勝てるだろうが、まだ力を取り戻すのに1年以上の時間を要するのだ。
それにギリギリまで力を向上させることは無駄にはならない。
たとえ星十字騎士団が全滅しても自分の力になる。
自分さえ生きていればどうとでもなるのでどう転んでも問題はない。
ふと玉座に続く渡り廊下を歩いていると、眼下から、鍛練のための修練場から、喧噪が聞こえてきた。
ユーハバッハが気まぐれに修練場を視線を移す。
そこには背筋をピンと伸ばした正座の恰好のまま水平に高速移動する一般兵士と、ソレを必死に追う星十字騎士団員の姿だった。
確か・・・星十字騎士団の女性(一部除く)で構成された“バンビーズ”という集団だったか。
どうでもいいが、自分の属する集団の名称に自分の名前を入れるなどどれほど自己顕示欲が強いのか、とユーハバッハは内心首をかしげる。

「アレは・・・なんだ?」

「———申し訳ありません。私には分かりかねますので直ちに問い正してきましょう。」

ハッシュヴァルトがすぐさま修練場に降りようとするが、それを止める声があがる。

「ハッシュヴァルト殿お待ちを。陛下私が存じております。発言よろしいでしょうか?」

「許す。」

声を上げたのはキルゲであった。

「まず今しがた彼女らの先頭を正座姿で高速移動していたのは一般聖兵の“ジュダス”という者です。彼は後ろを追っていたリルトットとは同期でして、彼女が星十字騎士団へ昇格した際には彼女の補佐官として他の兵士を取りまとめております。」

「そうか」

ユーハバッハはクソ不吉な名前では?と訝しんだ。

「彼は聖文字こそ受け賜わっていないもの優秀かつ勤勉な人物で、私も個人的に霊子の制御法のコツなど教授しております。」

なるほど勤勉に己を高める。
名前はともかくユーハバッハとしても好ましい。
ましてやキルゲがここまで評価するのなら人格的にも問題ないだろう。

「うむ。それで奴はなぜあのような状況なのだ。」

「ハイ!残念ながら追いかけれている理由までは分かりませんが、あの移動方法についてはご説明させていただきます!」

「陛下にはもちろん説明する理由はありませんが敢えて説明させていただくと、我々滅却師の基本技能として霊子の収束があります。更にこれを応用して霊子の足場を作りそれに乗って高速移動する飛廉脚と続きますが・・・」

キルゲが一拍呼吸を置き説明を続ける

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