ハーメルン
【カオ転三次】マイナー地方神と契約した男の話
第11話 違う意味での式神デビュー

黒札専用【高級式神】である<ヒメ>との初ダンジョンアタックは無事に終わり、これからじっくり<ヒメ>を育成していけば良いと思っていたのだが。好事魔多しというか、順風満帆には行かないというか。
七月下旬のある日、母親から電話が掛かってきた。

『維茂、お父さんがギックリ腰で寝込んだから、今週末戻ってきて』
「親父が? ギックリ腰なら生死に関わることじゃないし、戻って来いって何かあったの?」
『祇園祭のお神輿を担いで欲しいの、今年は家が町内会の役員だから』
「兄貴は?」
『大学の方で都合がつかないんだって。長男のくせにだらしない』
「そっか、町内会役員なら仕方ない。お盆の帰省を早めると思ってスケジュール調整するよ、土曜日の午前に山梨を出発して、そっち到着は夕方か? 日曜にお神輿担ぎ終わったらそのままトンボ返りすることになると思う」

祇園祭というのは、俺の実家の近くにある長野県上田市・馬背神社で毎年行われる例大祭だ。
毎年七月末の土日に行われ、男衆がお神輿を担いで地域一帯を2~3時間ほど練り歩くだけの、特に祭りの屋台とか出ることもない、簡素なお祭りだ。ちなみに祇園祭という名前だが京都の八坂神社とは全くの無関係で、共通点は七月末という実施時期だけ。なぜ祇園祭と呼ばれているか不明だ、俺が物心ついたときからそう呼ばれていることしか知らない。

母親との通話を終えて、急な帰省の交通手段を検討する。自動車の運転免許はまだ取得できていないので、実家へは電車とバスを乗り継ぐことになる。
山梨からだとJRで松本・長野を経由して上田に行くか、それとも距離的には遠回りとなるが東京まで出て長野新幹線に乗る方が手軽か、と考えたところで、<ヒメ>の存在に思いあたった。

「あっ、どうしよう」

<ヒメ>は低レベルが理由なのか思考AIが未成熟で、四六時中俺に引っ付こうとする。それに【会話】スキルこそ持たせているが、単純な受け答えならともかく、それなりに長い会話はまだ上手くこなせない。後、【食事】スキルを持たせていないので飲食もできない。
実家を巣立っていった息子が彼女を連れて戻ってきたら、母はガンガン飯を食わせようとしながら根掘り葉掘り事情を聞き出そうとするだろう。そうなると頭の可哀そうな娘扱いされるか、最悪だと人間ではないモノとして認識されてしまう。
かといって、<ヒメ>を連れて行かないという選択肢もない。2時間のお留守番が限界の今、丸2日のお留守番を命令しても、半日程度で俺を探し出そうとして思いつかないようなトラブルを引き起こす可能性が高い。

「うーん、いや<ヒメ>は悪くないんだよ」

雰囲気を感じ取って申し訳なさそうな顔をする<ヒメ>の頭を撫でながら、さてどうしたものかと考える。

*

三人寄れば文殊の知恵、一人で考えても駄目なら他人の知恵を借りる。
そういう訳でスタンクニキに相談したところ、ノータイムで<ヒメ>を連れていくと回答された。

「彼女を両親に紹介してやんなよ。精いっぱいフォローして、そんでも周囲からの疑い目が厳しいと思ったら、致命的なボロ出す前に彼女を連れてさっさと帰ってくりゃいい。次男なら家のメンツより惚れた女を優先するってことにして実家と疎遠になっても許されるし、仮に絶縁されても3年もすれば復縁できる」
「そんなもんなんですか?」
「考えすぎるな、何とかなるって。【食事】スキルがなくても出された飲み物で唇を湿らすくらいはできる、食物を口に含んだ後に気道に入ったふりで咳込む演技して吐き出すとかな。一泊二日なら腹の調子が悪いで何も食わなくても騙し通せる。会話は最低限にして、相手と視線を合わせてから軽く微笑んで会釈するだけで、ミステリアスな美人扱いで乗り切れることも多い」

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