ハーメルン
【カオ転三次】マイナー地方神と契約した男の話
第12話 馬背神社祇園祭(1)

七月最後の週末、<ヒメ>を連れて実家へ帰省する。初任給で両親にプレゼントとか考えたときもあったが結局忘れていたので、代わりにお土産として山梨名産の高級フルーツを大盤振る舞いすることに。
土曜日の午後、電車とバスを乗り継いで実家近くのバス停に降りたとき、バス停近くの蕎麦屋の駐車場に法被を着た小学生の一団がいるのが見えた。

「そういえば土曜は子供神輿の日だったな」

馬背神社の祇園祭は、土曜日は小学生の担ぐ子供神輿が地域を練り歩き、翌日に大人が本神輿を担ぐ。
ここの駐車場は担ぎ手の休憩・交代の場所として使われており、小学生の餓鬼どもがいる理由も、もうじき子供神輿がここに来るのだろう。
子供たちを引率する大人は…… ありゃ、母さんだ。うん、これは素通りできないな、挨拶しよう。

「母さん、ただいま」
「維茂、あんた、その娘は?」
「俺の彼女」
「はじめまして、川上姫(カワワミヒメ)です」

そう言った瞬間、餓鬼どもが大騒ぎだ。興味本位で<ヒメ>にまとわりつく子供たちの対処は彼女に任せ、母との会話を続ける。

「お土産に持ってきたけど、このメロンどうする?」
「みんなに見られているから家で独占できそうにないね。そこに入れて冷やしな、それから次からは見られないよう宅急便で送るんだよ」

<ヒメ>よりも俺が持ち帰った土産の高級メロンの方に興味津々だった子供たちから歓声が上がる。
七月の炎天下で神輿を担ぐと当然ながら汗をかき水分が欲しくなる。そのため休憩場所では子供用ビニールプールに水を溜めてスイカを冷やしておくのだ。

「それにしても、高校卒業まで女っ気の無かった息子に、あんな美人で…… パワフルな…… 彼女ができるなんてねぇ」
「まぁ、山梨って土地が俺と相性良かったってことで」

<ヒメ>は見た目こそ人型だが人外の存在、そのパワーは人並外れている。近寄ってくる餓鬼を片腕で小脇に抱え、二人いっぺんにグルグル振り回すことなど造作もない。公園の遊具のごときコミュニケーションだが、彼女の力加減が思ったより上手で、彼女も子供たちも楽しそうなので何も言わないでおく。
そういや、神輿の担ぎ手は男と相場が決まっており、ここにいる小学生たちもみな男なんだよな。パワフル美人なお姉さんに担がれ密着されて、性癖が歪んだりしないかちょっと心配だ。

「母さん、暑い中ただ立っているのも辛いから、先に家に戻るよ」
「母を手伝わない薄情な息子だねぇ。ま、スイカを切るくらいしかやることないから別にいいけど。今神輿を担いでいる子たちへお披露目しないのかい?」
「明日、俺が神輿を担ぐときに彼女も同行するから、お披露目はそれで十分。おーい、<ヒメ>、そろそろ行くよ」

<ヒメ>を連れて駐車場を後にし、実家へと向かう。母とのファーストインプレッションはボロを出さずに済んだので上々か。
実家では腰にコルセットを巻いた父がテレビをだらだら眺めていた。お土産の高級フルーツのうち桃とブドウは提供していないので台所に置いて居間に戻ると、<ヒメ>が腰を痛めて立ち座りに難儀している父を補助していた。成人男性をひょいっと持ち上げる力強さに父も驚いている。

「ギックリ腰をやったと聞いたけど、思ったより平気そうだね。紹介するよ、俺の彼女」

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/2

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析