ハーメルン
【カオ転三次】マイナー地方神と契約した男の話
第18話 馬背神社異界攻略・伝承再現

十二月二十日、俺と<ヒメ>は上田市別所温泉に再び宿泊した。年末年始は馬背神社にとっても人の出入りが多くなる時期なので、オカルト関連で人目に付かないようにするため、早めの決行にしたのだ。

「<ヒメ>、戦勝祈願で北向観音に参拝に行くから、武器の入ったケースを持ってきて」
「馬背神以外に、戦勝祈願…… ですか?」

<ヒメ>がキョトンとした顔をしている。こういう表情も可愛いね。

「ああ、この前異界に潜ったとき、鬼や餓鬼が出てきただろ。北向観音の本尊は千手観音、餓鬼道を摂化するとも地獄の苦悩を済度するとも言われている」
「なるほど、千手観音様に助力を請う理由があるのですね」
「他にも理由がある。馬背神社異界が地獄に侵食されている理由だが、『日本霊異記』第二十二話に、男が死後地獄に落ちるが生前に法華経を写経した徳により土葬から生き返った話があってな。それが信濃国小県郡の跡目の里という場所なんだが、今でいう青木村当郷地区、昭和32年に浦里村が二つに割れる前は当郷地区も馬背神社の守護範囲だった」
「それは、馬背神の守護範囲に地獄とつながる道があると?!」
「北向観音は天台宗の寺、天台宗は最澄が法華経を至上の教えとしたくらいだ。納経の代わりにお札を収めるだけでもご利益があるだろう」
「分かりましたわ! 行きましょう、主様!」
「もう一つ、北向観音と鬼退治には縁がある」
「まだあるんですの?!」
「平安時代、平維茂(たいらのこれもち)は北向観音に祈願して破邪の刀を授かり戸隠の鬼、鬼女紅葉を討伐したいう伝説がある。異界ボスの馬頭鬼を討伐するならこの鬼退治伝説にあやかっておきたい」
平維茂(たいらのこれもち)…… 主様が平田維茂(ひらたこれしげ)ですから、漢字もほぼ同じですわ!」
「俺は平氏の血を引いていないし、漢字は同じでも読みが違うけどな。そういや親父にどのような意図でこの名をつけたのか、聞いてないなぁ」

──後から振り返れば、フラグを積み重ねてるって感じの会話だった。

*

前回と同じく夕闇に紛れて馬背神社に赴く。今回は奮発して大吟醸の一升瓶をお神酒としてお供えし、いざ異界へ突入というところで見届け人の宮下のおじさんが彼の娘さんと一緒にやってきた。

「こんばんは、おじさん。それから知佳さん、お久しぶりです」
「維茂君も中学生のときと見違えるわ、こんな美人な彼女まで連れちゃって」
「あはは、照れますね。おじさん、知佳さんをこの場に連れてきたってことは」
「ああ、未覚醒だが私の後継者として知識は伝えてある。今後のことを考えると早めに顔合わせした方が良いと思ってね」
「【ガイア連合】の式神って凄いのね、触っても人間と見分けつかない。私、式神なんてせいぜい一反木綿みたいな姿してると思ってた」
「そのような姿の式神もありますよ。【ガイア連合】には技術力を持った馬鹿が複数いましてね、そいつらが馬鹿やった結果です」

知佳さんは俺と<ヒメ>を交互に見やり、ふぅとため息を一つついた。

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