九人の欲と一人の希望 Ⅱ 『志望』
遣隋使を護衛することが正式に決まったため、その護るべき人たちの紹介をしている。それぞれ、この都の発展を願って日々勉学に励んでいるようで、加えて思慮深い者達ばかりだった。
「こちらが小野妹子さんです。」
「貴方が神田零殿ですな。私が小野妹子です。」
「神田零だ。よろしく。」
中でも、この小野妹子という人物は一際優秀であるよう。しかしながら、妹子という名前の割りには髭オッサンな外見だ。しかも、目付き悪い。どういう人間か、妹子に『ディア』をして基本的な志しを見たところ「太子様のために勉強するぞ!」ということしか頭になかった。見かけによらないのはいつの時代も変わらないな。そして、無闇に人の心を見るもんじゃない。反省し、今度から気を付けるとしよう。
遣隋使との挨拶を終え、軽く世間話をしていると、遠くの方で妖怪の臭いを感じ取った。波形から人間らしき存在と寝転がっている妖怪がいるようだ。これは、俺の出番のようだ。というのも、今はこの国を無償で護っており、言わばボランティアのようなことをやっていた。
「妖怪が国の近くにいる気配を感じる。追い返してくる。」
「なんと、護衛をしてくれているとのことは本当だったとは。ありがたい。」
本当に良い奴だな。小野妹子とは仲良くやっていけそうだ。そんなどうでもいいようなことを考えながら立ち上がり、首を鳴らした。
「『瞬間移動』。」
誰かからの「ありがたい」というこの一言を嬉しく受け取れない奴は、嫌味と受け取らない限り存在しないだろう。実際、その言葉があるからこそ金銭を求めず守っているのだ。
目的の場所に着いた。しかし、その場所の景色は少しばかり予想外だった。
「妖怪の臭いが妙に強いと思ったら、血肉が飛び散ればそれは臭いが強いわけだ。波形から寝転がっているように見えたのも納得がいく。」
そして、僅かながらに自然エネルギーも残留している。自然エネルギーというのは、自然から発せられる力であり、それを駆使する代表例は仙術だ。
「仙人か?殺り方に容赦がないことをみれば、戦闘好きな仙人か、仙人と言うことを悪用した邪悪なる者か。」
「どちらでしょうね。」
後ろから声がする。先程、波形からみたもう1人の方だろう。顔を向けると、そこには青髪の淑女が立っていた。
「隋から来たのか?」
「ええそうよ。霍青蛾。よろしくね。」
「神田零だ。それで、なぜここに来た?」
俺は警戒しながらも、彼女の目的を伺う。
「ここに、人が死ぬのは何故なのだろうと悩んでいる偉い人がいるらしいから、道教を薦めてみようかなって思って来たのよ。」
偉い人?神子のことだろうか。欲を見通せる者故の疑問なのか。
一応、俺は不老不死だが、寿命がないってだけで、攻撃や衝撃による死はある筈だ。そんな俺だが、その事について疑問になったことはない。
「貴方ではなさそうね。でもお強いのよね?」
「まあな、道教はこの国にはあまり向かないと思う、一応案内はするが…」
「あら?簡単に信用していいのかしら?」
「嘘をついてないからな。分かるんだよ、そう言うの。」
単純に『ディア』をして思考を覗き見ただけだが。妹子の時の反省が全く活かされなかった。
「ふ~ん。まあいいわ。案内してくれるのは嬉しいわ。」
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