ハーメルン
【鬼滅×葛葉ライドウ】デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 鬼殺隊岩柱 悲鳴嶼行冥
最終章  異界の友ら、別れて歩む


 ――一方、その少し後。
 未だ夜の明けぬ中、細い月の浮かぶ下。膝まで届く草むらを掻き分け、玄弥は歩いていた。
 前を行く悲鳴嶼に言葉はない。あの古屋敷を出て以来、ずっと。
 それで玄弥も、その大きな背を黙って追った。

 不意に悲鳴嶼が立ち止まる。月を見上げるように、顔を上げてつぶやいた。
「何なのだろうな」

 玄弥も立ち止まり、息をつく。
「ほんと何だったんですかね、あの人ら……」
 ライドウたちはもういない。古屋敷の中、空間そのものに亀裂が走ったかのような、宙に浮かぶ黒い裂け目、元いた世界への入口だというそこに彼らは先程飛び込んだ。そして、それを待っていたかのように裂け目は閉じ、薄れて消えた。
 消えた。彼ら自身さえもが、幻だったかのように。

 それでも。彼らのことを、ライドウの繰り出す召喚術を、凪の真剣な眼差しを。背をはたいてくるヨシツネの手を思い出すと。確かに胸が熱を持つ。

「いや……」
 背を向けたまま悲鳴嶼はうつむく。低く言葉を続けた。
「――何なのだ、というのは。私自身のことだ」

「え……」
 玄弥が目を瞬かせるうちに、悲鳴嶼は言った。
「柱となって長くあれど、守り切れず取りこぼした命の何と多いことか。先程は異界の御仏に、知った風な口を叩いてしまったが……」
 大きくかぶりを振ってつぶやく。
「あれは私のことだ。助けを求める者らを救えていないのは、守ることができなかったのは。神仏ではなく、この私だ。……私が責めたかったのは、この私だ」

 うつむく悲鳴嶼に、玄弥は声をかけた。意識して、大きな声で。笑うように。
「そんなこと、ありませんよ。現にこうやって、俺を助けて――」

「そして現に救えなかった、お前以外の隊士は」
 小さくかぶりを振り、悲鳴嶼は続けて言った。
「それどころかお前も救えなかっただろう、彼らの助けがなければ。お前がこの任務に就いて行方知れずとなったと聞き、自ら志願しておきながら」

 玄弥の口が小さく開く。それから知らず、頬が緩む。――なんだ、何だかんだ言って。俺を助けに――

「違うのだ」
 刺すようにそう言って、悲鳴嶼は続ける。
「お前のためではない。私はただ……見続けてきた。多くの人々が、そして仲間が、死してゆくのを。それに(いささ)か、心の何処(どこ)かで……疲れていた。怯えていた。いや、怯えているのだ、今も」

 長く、息をついた。
「この任務に就いたのは。ただ、私のためだ。自分がよく知る者の死を、見たくなかったからだ、私が。お前のためではない……。きっと、もしもお前が死したとしても。涙の一つも流さないだろう、私は――」
 うつむき、合掌して言った。
「なんとみすぼらしい心根の男だ……生まれてきたこと自体が誤りだったのだ」

 玄弥は口を開けていた。何も言わずそうしていた。悲鳴嶼の広い背中が、遠くに追い続けてなおも大きく見えたその背が。今はただ、小さく見えた。

「でも」
 とにかく、口はそう動いた。何か言わなければ駄目だ、何かを。たとえそれが的外れだったとしても。

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