ハーメルン
【鬼滅×葛葉ライドウ】デビルサマナー 葛葉ライドウ 対 鬼殺隊岩柱 悲鳴嶼行冥
第三章 友の残り香、遠方より来《きた》る
――その一刻ほど前。
帝都郊外、人の気配のない
草原
(
くさはら
)
で。月明かりの下、ライドウは少女と向き合っていた。
少女、凪は手にした小太刀程の短い木刀を、体の前に片手で構え。大きく踏み込むと同時、ライドウへと真っ直ぐに突き出す。
「はっ!」
ライドウは片手に木刀を提げたまま、無言で小さく身をかわす。
そこへ凪は、矢継ぎ早に木刀を繰り出す。突き、
逆袈裟
(
ぎゃくげさ
)
の斬り上げ、そこからの斬り返し。その動きの度に、緩く縦に巻いた彼女の黒髪が顔の両側で揺れる。
ライドウは構えることなく、わずかな動きで身をかわし続ける。だがやがて木刀を上げ、凪の突きを片手で横から弾いた。
かと思うと。凪の木刀を、自らの木刀の中ほどで押さえたまま身を寄せる。そのまま、空いた左手を自らの切先に添わせて、凪の喉を横からかき斬る――その手前でぴたり、と止めた。
「……!」
びくり、と動きを止めた凪から、ゆっくりと身を離す。木刀を下ろした。
「……甘い。突くよりもむしろ、引きを意識するべきだ。さもなくば、こうなる」
木刀を弾かれたままの姿勢で固まっていた凪は、そこで大きく息をついた。木刀を下ろし、深く頭を下げた。
「恐縮する、プロセスです」
表情を変えずライドウは言う。
「だが、良くなってきた。続けよう」
凪は、ぱ、と青い目を見開き、表情を緩めた。額の汗を、濃緑のジャケットの袖で拭おうとして。思い直したように、ズボンから出したハンカチで拭く。
ライドウは片手で木刀を握り、構えてみせる。
「それと片手剣、威力が劣るのは仕方がないが。重心の移動で体重を乗せることができれば違ってくるだろう。正中線を意識して、腰を――」
「そうそう、腰だよ腰! 剣は腰! うどんと同じだね」
言ったのは凪ではない、離れた場所に座るゴウトでも。
白くか細い光をまとって宙に浮かぶ亡霊の如き姿。
それは友。悪魔とそれを悪用するものの手から、この国を護る『超国家機関・ヤタガラス』の仲間だった少年。
先頃『秘密結社・コドクノマレビト』との戦いで、ライドウ自身がその手にかけた、それは敵。
霊
(
アストラル
)
体の姿を取って、
安倍
(
あべ
)
星命
(
せいめい
)
がそこにいた。
口を開けていた、ライドウは。
「…………、っ……!」
それでも、奥歯を噛み締めて。手にした木刀を振るった――明らかに重心の乱れた、力まかせの剣を。
星命は身をのけ反らせて宙を滑る。
「うわあああ危なっ! ……すまない、ライドウくん。先に言っておくよ」
表情を消して――いや、どこか申し訳なさげに眉を下げ――星命は言う。
「僕は安倍星命じゃない、彼の霊でも魂でもない。彼は死んで、この世に無い。……彼の残した思念、それが彼の姿でここにいる。そう理解して欲しい」
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