#0x09 Never say goodbye (2/2)
しかし彼女にそう言われて、そこで僕は気づいた。
「武器取引の背後。DAへの攻撃は、アラン機関の指図だった。その話か」
「そうだ。つまり真島は、アラン機関の支援を受けている。恐らくは、吉松からだ」
「他のアラン機関の連中からという線は、ないのか?」
僕の反論に、クルミは首を振る。
「DAへの攻撃を依頼してきた人間の声。電話越しだから百パーセントの確信は持てないが、あの声は吉松だった」
「なら、ほぼ確定か……」
思わず、呻くような声を上げていた。あの無茶苦茶な犯罪者に、吉松が支援をしている?
僕の思った彼の人物像と、その行いがリンクしない。しかしもしそれが真なのであれば、確かに突破口はある。
「たきな、DAの作戦に参加しろ」
クルミが、たきなさんへと声をかける。
「吉松の足取りを直接追うのは難しい。ならばすでに場所も面も割れている真島から辿るのが一番早い」
これはチャンスだぞ。畳みかけたクルミに、しかしたきなさんは少しだけ、顔を伏せた。
「……今回の作戦、断ろうかと、思っていたんです」
「何故だ。望んでいたんだろう? DAへの復帰」
驚いたような声で、クルミが問い返す。それでも僕は、思わざるを得なかった。やはりか、と。
昨日の、たきなさんからの相談。天秤は千束との時間を過ごす方に、傾いていたのだと。
「諦めかけてたんだよ、たきなさんは。受け入れて、最後の思い出を作ろうと、考えたんだ。千束との」
一瞬だけ、たきなさんはこちらを向く。そしてどこか残る悔悟の情にか、口を結んだ表情でゆっくりと頷いた。
「隼矢さんの、言う通りです。私は、諦めかけていた。……ですが、変わりました」
クルミを真っ直ぐに見据えて、そして彼女は宣言する。
「私がDAに戻って、そして真島を捕らえることで。千束が助かる可能性が少しでもあるのなら。戦います、DAで。DAに戻って」
そこで一度呼吸を入れる。そこから今度はミカさんの方を向いて、彼女は続きを口にした。
「千束には、私が直接伝えます。……だから明日一日、時間を下さいませんか」
そこまで言い切って、頭を下げて、そして上げる。
そうやってこちらを見据える彼女の瞳には、決意の色が浮かんでいた。
やるべきことをやり通すと肚に決めた、とてもいい顔つきだった。
翌日。
その日は喫茶リコリコにとって、とてつもなく珍しいことが起こっていた。
千束が朝一にリコリコに来ていて、そしてその場にたきなさんがいない。たきなさんは少し場を外すと言って外に行っているだけではあるが、そうであるにしても奇妙な景色であることには違いなかった。
そもそもこの店は、大体午前中には客が来ない。だから千束の遅刻癖が許されている部分も多かったのだが、何か考えるところがあったのだろうか。
そう思って、考えるまでもないな、と思い返す。
残り少ない日々でも、彼女は必死に生きようとしている。無理にでも声を上げて、陽気にふるまうのだ。自分のせいで周りの人たちの顔が暗くなることは、きっと千束にとっては耐えがたいことだろうから。
それでも、朝のリコリコに客が来ないという事実は、彼女がいくら頑張ろうがどうにかなるものではない。つまりそれは彼女には珍しく、ただの空回りと言えなくもなかった。
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