#0x01 First Encounter, Again (2/2)
明くる日。少し遅めの朝九時にセットしたアラームで起きた僕は、昨日と同じように、リビングに据えてあるデスクトップの前に腰を据えた。前日に仕掛けていたスクレイピングと解析の結果は、果たしてレポートとして生成されて、そのモニタの上に展開されていた。
粗々で集めていたこともあって、関連度が閾値を超えた結果は二万五千件以上。そこから再帰的に、DAの報告書にあった画像資料などから抽出した画像やテキストの特徴ベクトルとのコサイン類似度による絞り込みを行い、情報の依存関係を含めたデータのツリー構造を構築する。
結果的に、有意に高関連度を示した結果は五十件余り。共通する字句は、移動手段としての「白いバン」。押上周辺での目撃情報が多く、欺瞞された取引時間の二十七時間前、十五時間前、そして三時間前に集中して分布している。その中、最も確度が高いとみられる投稿は、一つの写真を伴っていた。
それは一見して、何の変哲もないカップルの自撮り。これに高類似度判定を下した分析エンジンに一瞬だけ疑念を抱いたが、画像のパッチデータ上に顕著に記録された類似度のデータと、該当のパッチデータ部分を拡大した画像を見て、僕はこの画像を投稿したとみられる人物に心底同情した。
DAの報告書にある、武器取引現場の写真。それとこの画像の間で、同じような色、意匠の服を纏う人物の姿が見える。そして何らかの武器を納めているであろう木箱も。
間違いなく、本当の武器取引の、その瞬間の現場。それがこの写真には綺麗に切り取られていた。当該の画像はその投稿とともにすでにSNS上からは削除されているが、前後の投稿を見る限りにおいては、何らかの脅迫メッセージが彼女のもとに送られていたらしい。この画像を投稿したSNSアカウントの持ち主――おそらく女性だ――はタチの悪いストーカーに目をつけられたと考えているようだが、事態はなお悪かった。
彼女のSNSアカウントを追跡すると、警察への相談を行った形跡がみられる。無防備にも画像に残されていたEXIF情報から、彼女の相談を受けたと思われる警察署を割り出して……そして僕はとうとう天を仰いだ。
押上警察署。この家の近所であり、そして喫茶リコリコの常連客である、阿部さんの勤務先でもあった。
押上警察署の刑事課の窓口。正面からのアポなし訪問である故に律儀に番号札をもって、僕は自分の番を待つ。程なくして受付に呼ばれた僕は、来客として阿部さんに用がある旨をカウンターの女性に告げた。やや怪訝な顔をした彼女は、少々お待ちください、とだけ言い残し、奥へと引っ込んでいく。
程なくして、彼女が一人の男性を連れ立って現れた。壮年から老年に掛かろうかという年頃の、やや恰幅の良い男性。それはまさしく阿部さんだった。こちらが会釈をすると、彼はやや驚きつつも声を弾ませた。
「おお、真弓さんじゃないですか、店の外で会うのは初めてですな」
何か用ですか、とこちらを促す彼を横目に、受付の女性に会釈しつつ目配せをすると、彼女は一つ礼をして元のカウンターへと戻って行った。その始終を確認したのち、僕は阿部さんに向き直る。奥の方に目配せをすると、彼も少しばかり眉をひそめながら、僕をお手洗い周辺の人目のつかない場所へと案内した。
「それで、」
何の用か、と。そう切り出そうとしたであろう彼を手で制止して、僕は手に持った「証票」を提示する。目の前の彼が、ひゅっ、と息を呑んだ。
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