#0x0B The tiny pride of the rascal (2/2)
ここからの時間は、僕は千束の専属としてのオペレートに専念することになる。状況確認のために開いていたライブカメラ映像は、必要がないので閉じた。
そして持ってきた鞄から、VRヘッドセットを取り出す。
千束に取り付けたカメラは、取付位置の関係でその性能の半分ほどしか発揮できていないが、一応360度をカバーする視界を持っている。対応するアプリ越しに使えば、彼女の視点から広範囲に向かって状況を確認できる。場合によっては、彼女の死角を補うことにもなるだろう。
映像端子をラップトップに取り付けて、ヘッドセットを頭から被る。一瞬の暗闇のあと、千束と同じ視界、旧電波塔の入り口部分の光景が目に飛び込んできた。
「準備完了。入っちゃっていいよ」
『おっけ。んじゃ、始めますか』
まず、一階部分から入館し、給電が行われている低層階エレベータで五階までは上がる。
千束は敵の注意を引くべく、入り口の非常ベルを鳴動させながらエレベーターへ潜り込んだ。
「上層階へのルートはわかる?」
『一応、大丈夫。これでも前来たことがあるからね』
「前? いつのこと?」
エレベーターの中、これからの手順の確認がてら話していたところで、彼女が気になることを言う。
旧電波塔の崩壊というのは、今から十年前のことだ。それ以前にここに来るとなると、その時の彼女は七歳よりも幼いと言うことになる。つまり人工心臓を手に入れるより前だ。まさか崩壊後にここに来るわけもないだろう。疑問に思って訊いてみると、彼女はきょとんとした声色で返してきた。
『あれ、前言わなかったっけ? 電波塔事件、私もここにいたって』
「……ああ、そう言えば」
その言葉に、僕はようやく思い出す。四か月ちょっと前、千束とたきなさんの服選び兼街歩きに付き合ったときの、押上水族館の中の話だ。自身が非殺傷弾を使い始めた契機が電波塔事件だったというようなことを、千束は言っていた。
ただ冷静に考えれば、それはとんでもない話なのではないかと今更ながらに思う。齢七歳、実戦投入など普通は到底ありえないレベルの年齢で、国内最大級のテロ事件の鎮圧に彼女は駆り出されていたということなのだから。
そこで、一昨日のミカさんの言葉を思い出す。確かに彼女はその時点ですら、リコリスの中で最強の戦力であった、という話だ。確かにそれを聞けば納得はできないでもないが、しかしそれでも、それには文句の一つも付けたくなるというのが、人情というものだろう。
「しかしまあ、世も末だな、DA」
『それ、わかるわー……あ、着いた』
そこまで言ったところで、丁度エレベーターが五階に到着した。
降りて、素早くクリアリングをする。敵影はない。彼女が、銃を下ろした。
「ここからは、ひたすら階段か」
『壊れちゃったところから先は、階段どころかアスレチックだよ』
軽口を叩きながら、彼女は先へと進む。
目に見えるホールには、今のところ人影はない。しかしここからは分からない。
『さすがに階段には、いるよねぇ、向こうさん』
「多分ね。まあ、適当に鎮圧してもらって」
『適当にって……まあ、そうだけど』
いつもの調子で、彼女は歩を進める。エレベーターホールの向かい、非常用階段の扉を開ければ、果たして何者かの姿があった。
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