Apdx.01-05 [EOF]
そこからの二週間は僕自身、吹っ切れた自覚というものを持っていた。やるべきことが明確になって、千束への接し方もまた明快になったような気がした。
一番それが大きく表れたのは、台所でのことだった。
ハワイ滞在中の僕たちの夕飯は、リコリコの昼のまかないと同じように、持ち回りの当番制が基本となっていたリコリコOD第三話参照。ただ当然に、店でのまかないとは事情が違う。量を用意する必要のある夕食ということもあって、キッチンには大体二、三人で当たるのが慣例だった。持ち回りというのはあくまで、献立を考えた上でメインでそこに立つ役割についての話ではある。
とにかくそんなキッチン事情にあって、僕は千束が当番の日は、必ず彼女の横で手伝いをするようになった。千束と相部屋になって、彼女と「約束」をしたその日からのことだ。
千束の考える献立は、やはりリコリコでのまかないと似たような方針のものリコリコOD第三話参照だった。つまり彼女のチャレンジ精神が存分に発揮されていて、更に言えばハワイに来たからということもあってか、彼女はロコ料理やハワイ伝統料理のようなこの場に合ったメニューを望んだ。
ロコ料理の時は、基本的にはあまり困難はない。そもそもロコ料理はその大部分が日本や沖縄料理の影響をもろに受けていて、調理法や食材に至るまで、日本でのやり方をある程度は踏襲できるからだ。
しかしハワイの伝統料理となると、勝手はまるで違ってくる。ポリネシアの系譜を色濃く継ぐそれは、そもそも主食がタロイモという、日本人からすればあまりなじみのない食材だ。一応里芋はその近縁種ではあるが、しかしハワイ人はタロイモを里芋のように煮っ転がしにするわけではない。主に彼らはペースト状にして食べる。
さすがに僕たちはそれを主食にはしづらいと言うことで普通に米を炊くことにしたが、しかしその他にも、バナナやタロイモの葉っぱに包んで蒸し焼きにした肉であるとか、豚を丸一頭丸焼きにするであるとか、僕たちからすれば珍奇に映る料理は数多くあった。だからというか、千束の当番の日は前々から、彼女が「やりたい」と出してきた料理の案から実現可能なものを取捨選択するところからがスタートだった。
そして僕はその日からというもの、その段階から千束の側で手伝いをすることにした。二人で献立を決め、買い出しに出かけて、そして同じキッチンに立つ。千束と同室になってからあった二度の機会、僕と彼女はそうやって協力して夕食を作って、全員に振る舞った。
それはいうなれば、共同作業だった。僕の方から積極的に千束に歩み寄って、彼女のすぐ隣で、寄り添うように作業をする。僕たちのその様子を、他の四人はどこか微笑ましげに見ていた。たきなさんですらそんな表情をしていたものだから、何ともこそばゆい気持ちにさせられたが。
いや、しかしそういえばミズキさんだけは凄まじい目つきをしていたような気がする。「視線で人が殺せたら」、みたいな。しかしあれはあれで恐らく愛情表現の一つだろう。多分。きっとそうだ。
もう一つは、夜、寝室でのことだった。こちらはまあ、そう大した話ではない。無論意味深な話でもない。
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