#0x02 Party for deaf-mutes (2/2)
想定する逃走ルートは、かなりの遠回りだ。東京駅から出発し、日本橋から首都高一号線の下道、国道四号に入り、北上。梅島陸橋の辺りで環七に入り、北綾瀬の駐車場に乗り換えを名目で呼び出した錦木さんと井ノ上さんと合流。これが前半戦の基本ルートだ。追手側の動きによって多少進み方に前後はあるが、基本はこのルート。合流した後は、妨害がなければ川の手通りを南下し、堀切五丁目の交差点を右折して平和橋通りに入って、小菅ICから首都高中央環状線に乗る。その後葛西臨海公園の辺りで一度降り、車を乗り換える。それさえ済んでしまえば、首都高湾岸線で羽田空港まで到達、表向きの任務は達成となる。とはいえまんまとこのルートで逃げ遂せてしまった場合、偽装死の演出は困難を極めることになる。どこかで妨害が入ることを期待することになるだろう。まあ、入らないわけがないが。
現状の想定では、車の乗り換えを行う葛西臨海公園周辺で偶発的戦闘にかこつけて着ぐるみの「ウォールナット」が狙撃され、死ぬ。そういう計画で動いてはいる。しかし情勢は流動的だ。どこで戦闘に入っても、うまく射線に割り込んで「死ねる」ようにと、「ウォールナット」――中原さんとは打ち合わせている。後は彼女の演技力を信じるだけだ。
現在前方を進むウォールナットたちの車は、その後方四十メートルほどから大型のバンに執拗に追跡されている。現状はお互い法定速度を守っているが、どこかのタイミングで撒かないことにはおちおち合流のために停車することも難しい。一度脇道に逸れ、右折四回で元の通りに戻る間に、僕の車を追跡者との間に割り込ませることにする。念のためとして、この車は窓ガラスやタイヤも含めた防弾加工を施されている。安心して盾になれるというものだ。自動運転を一時停止し、ハンドルを握る。第一幕が始まった。
あちらの車が右折する予定の二つ前の交差点から脇道に入る。事前に収集してある信号スケジュールから、追跡者との間でドンピシャで信号が変わるタイミングはすでに伝達積みだ。こちらが脇道に入って三十秒ほどで、首尾よく交差点を右折できたことを知らされた。
信号待ちをすること、二分弱。目の前を一台の白い軽自動車が通った。ウォールナットたちの車だ。そしてその直後に、対面の信号が赤に変わる。追跡者たちの白いバンが交差点に進入する頃には、信号待ちをしていたこちら側の信号が青になった。
しかし当然、追手がご丁寧に赤信号を遵守するわけがない。無理やり交差点内部に侵入しようと、やや速度を落としながら突っ込んでくる。
「そうはさせるかよ、っと!」
クラクションを一発。右折のためにのろのろと交差点に進入しつつ、追手の車にこちらの車体を割り込ませながらの牽制。さすがに事故を起こしては追跡に支障が出ると見たか、追手の車は左に大きくハンドルを切って急停止する。それを尻目に、僕の車は悠々と道を右折、追手の車との間に割り込むことに成功した。厭味ったらしく二度軽いクラクションを鳴らしながら、彼らを置いて走り去る。第一関門、これで突破。
その後は、はるか後方に置き去られた追手が追跡を諦めたようで、ウォールナットたちは比較的スムーズに北綾瀬までたどり着いた。無事リコリス二人組と合流し、走り出した車を確認して、改めて僕はラップトップの画面に目を落とした。ここから、第二幕の始まりだ。
作動させている低出力対空レーダーは、先ほどから一つの異物を捉えていた。ウォールナットの車の後方二十五メートル程度で追尾する、ごく小型の飛行物。向こう側の「技術者」の使役する、監視用のドローンだろう。あるいは何らか妨害を行うための中継器としての役割も持たせているかもしれない。暗号化回線を開く。
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