ハーメルン
世界の背表紙で、君と踊ろう
#0x02 Party for deaf-mutes (2/2)


 ならば、それに対して手当てをするのは僕の仕事であるべきだった。今回の一件の筋書きを作って、彼女の、いや千束さんをも含めた動きを誘導したのは、他でもない僕なのだから。
 後始末をする責任は、他でもなく僕にある。「教育」という面においては、或はミカさんが言うべきことなのかもしれないけれど、それでも強い義務感が、僕を動かした。



「たきなさん」

 敢えて割り込むように、名前を呼ぶ。

「っ……なんですか、真弓さん」

 きっ、と睨むように、たきなさんが僕の方を向いた。

「今回のことだけどさ。……正直、あまり気にしないでほしい。もとから、君たちにはどうしても任務に失敗してもらう必要があった。下手にコトを巧く運ばれると困るから、ある程度ミズキさんには君たちの足を引っ張ってもらうように動いてもらったんだ」
「何を……」

 反駁しようとした彼女に、畳みかける。

「納得できない?」

 黙って、首が縦に振られた。そうだろうなと、一人頷いて言葉を続ける。

「だったら、だけど。……今回の『失敗』の原因を敢えて挙げるなら、それは『意識のずれ』だ。というより、僕は君たちのそこにつけ込んだんだ」

 微かな、息を呑む音が耳朶を打つ。それはたきなさんによるものか、或は千束さんのものだろうか。

「もう一回言うけど、どうしてもの理由だよ? これは。でもいざという時に何を優先するか、千束さんと君とでは、明確な乖離があったのは確かでさ。それは付け込むのに十分なポイントだった。咄嗟の判断とか、反射的に出る行動とか、そういうところでね」

 たきなさんは、押し黙ったままだ。しかし見ればその右手は固く握られていて、裡に抱える憤懣をこの上なく示していた。
 それでも、僕は言葉を止めようとは思わない。どうしてもたきなさんには、真の意味で納得してもらう必要があった。だから僕は今、努めて正論を語っていた。感情論ではない、筋の通った話を心がけていた。合理主義を地で行くような彼女には、そちらの方が適していると考えたからだ。

「その溝をどうしても埋めたいっていうのなら。結局、お互いを理解することから始めるべきなんだと思う。……『無理がある』って斬って捨てるばかりじゃ、何も変わらないんだよ、多分。今君がいるここは、千束さんの方針で動いてるんだから」

 つまりこれは、「チーム論」だった。
 リコリスは、平たく言えば「暗殺者集団」だ。故に普段の「業務」においては、個別行動を基本としている。しかしその中においても、チームプレイは、その心得は、時に必要となるものではあったはずだ。
 そういう意味では、僕が話していることは彼女にとっては釈迦に説法なのかもしれない。それでも敢えて今このことを口にする意義は、それを意識させる価値は、確かにあるはずだった。

「ちょっと、隼矢さん……!」

 千束さんが止めに入ろうと声を上げるが、僕はそれを片手で制止する。

「だからね、たきなさん」
「……はい」

 一歩だけ、進み出る。彼女の前に立って、僕は努めて優しく言葉を紡いだ。

「『馬には乗ってみよ、人には添うてみよ』って。……つまり、まずは千束さんと仲良くなることを、考えてみたらどうだろう。そこから見えてくるものも、あるんじゃないかな」

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