冬場の蟲
(──────さて)
一方通行が寝ていた体を起こす。
視線を巡らせ、ベットの横に掛けてあった杖を片手で掴むと、それに体重を預けながら重い腰を上げた。
ギィ、とベットが軋む。
一方通行は木製の扉を開けて部屋から出ると、そのままこの家の玄関まで向かう。数時間前までは騒がしかった筈だが、今となってはその面影はない。
理由としては、単純に人がいないからだ。
あの虎柄の女も紫色の少女も帰った。衛宮とセイバーは何だかんだで二人一緒に街の巡回に出かけたらしい。
そうして空っぽになった家には、一方通行しかいないと言う訳だ。
(時刻は一ニ時手前、か。アイツら、何時に帰るつもりだ?)
気にする事ではないが、衛宮達の帰りがいささか遅い気がする。
彼らが街の巡回に出かけたのは、確か九時を過ぎたあたりだった筈だ。あれから三時間は過ぎようとしている。それだけ熱心に探索しているというなら話はそこで終わりだが、本当にそれだけなのかは少し気になるところだ。
カチ、と玄関の鍵を開ける。
扉を開けると、冷えた外気が一方通行を襲った。
「…………っ」
ポケットに手を突っ込みながら門を越える。
右と左に別れている道を見て、適当に左側へ進む事にした一方通行。そこに意味とかは全く無く、本当に適当だった。
(まずは、下見だな)
目的はこの街の構造を把握する事だ。
特に必要はないとは思うが、やっておいて損はない。その調べている過程でサーヴァントと遭遇すれば良いのだが、はたしてどうなるのやら。
(簡単に街の形が分かる地図とかがあれば文句はねェンだが……)
そんな物は無いだろう。
衛宮の家にあれば最高なのだが、普通に考えて自分が住んでいる街の地図を持っている奴など中々いない。『持っているか?』なんて聞くのも馬鹿馬鹿しいので、頼る事はしなかった。
他の方法は何処かで買うという手がある。
しかし、この時間帯だ。ほとんどの店は閉まっているだろう。
他にあるとすれば、
(街の案内板とかか……、当てにならねェ。そもそも何処にあるってンだよ)
パッと思い付くのは公園だ。
あのような人が集まる公共の場とかには、たまに観光案内板とかが置いてある事がある。学園都市でも大覇星祭のような外部の人間が来るイベントには、公園に付けられているモノだ。
(公園か。確か、昨日の場所には付いてなかったな。……他の場所を探すしかねェか)
一方通行は首の電極に触れた。
正直、能力を使って街を探索すれば話は終わりなのだが、一方通行はわざとその手を使わなかった。
単純な話、バッテリー切れを避けるためだ。
この世界にバッテリーを補充する方法はない。この電極はカエル顔の医者が作った、正真正銘の世界で一つしかない代物だ。一方通行の脳を代理するために学園都市の最先端技術で作られたモノが、そんじょそこらの乾電池で充電できる訳がない。
ここばかりは学園都市が無い以上、一方通行にはどうする事も出来なかった。
─────しかし、
(どォいう訳か、バッテリーは切れていねェ。俺の予測が正しければ、すでにバッテリーは使い果たしている筈だ)
コンコン、と電極を指で叩く。
もしかしたらミサカネットワークの代わりがあるように、何か別の法則が働いているのだろうか。
勝手に充電してくれるという、一方通行にとっては一番ありがたい法則が。
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