ハーメルン
とある英霊の一方通行
世界は平和で────それでも裏では残酷に

日は落ちていた。
夜は暗く、そして寒い。
居間にいる間は何とも思わないが、廊下に一歩でも出ただけで分かるほど空気な冷えている。天気予報によると、今週中に雪が降る可能性があるとの事で、今よりも更に冷え込むらしい。
面倒臭い、と何となく思う。
ロシアに比べたら何倍もマシだが、それでも面倒臭いものは面倒臭い。それに、こちらは杖をつきながら歩いている身だ。地面が滑るというのは、あまり好ましい状況ではなかった。
「────────」
ザク、ザク、と。
包丁で野菜を切る音が部屋に響く。
それは台所に立っている桜が、料理をしているためだ。しかし、昨日は衛宮と一緒に料理をしていたのだが、今日は一人らしい。
何故か、この家の主である衛宮よりも先に桜が帰ってくるという、良く分からない展開になっているからだ。
もしかしたら朝の桜のDVの件で、何かあったのだろうか。
と。
「ねぇねぇ」
つまらなさそうにしている一方通行に、虎柄の女が話しかけた。
「…………あァ?」
非常に面倒臭いといった雰囲気を全力で出しながら、一方通行は目線も合わせずに返事をする。
しかし、その対応に何とも思わなかったのか、虎柄の女は興味津々に続けた。
「アクセラレータくん……だよね? 失礼かもしれないけど、ちょっと名前長くない?」
本当に失礼な質問が来た。
ガチのキラキラネームでもないのに、名前に関してとやかく言うのはマナー違反だと一方通行は思う。
といっても、一方通行が本名という訳でもないので、そこらに感しては何とも思わなかった。
「…………あァ」
一方通行は目線を合わせずに、一言で返事をする。それでも折れない虎柄の女は更に続けた。
「じゃあさ、アクセラレータくんって何処から来たの? やっぱりノルウェーとか?」
「…………ロシア」
嘘かどうか微妙な答えを出す。
実際にロシアから直で来たと思われるが、それでもこの世界のロシアではない。そもそも住所としては学園都市なのだが、これに関しては質問が悪かった。
へーロシア! 確かに、それっぽーい!!と、虎柄の女が一人で騒いでいるが、一方通行は何も反応しないし見向きもしない。
完全にその場にいないかのように、ガン無視に徹した。
しかし、それでも尚続く。
「あ! 私だけ名前知ってるなんて、おかしいか。えーと、私は藤村大河。士郎からは藤ねえって呼ばれてるから、アクセラレータくんもそう呼んでくれて良いわよ」
「そォかよ。よろしくな藤村」
「まさかの呼び捨て!?」
叫ぶような声に一方通行が苦い顔をする。
すると、玄関の扉が開く音がした。
「ただいまー」
そう言いながら、聞き慣れた声が聞こえてきた。考えるまでもなく衛宮だ。こんな時間まで何をしてきたのか疑問に思ったが、それはすぐに明らかになる。
「よっ、と」
衛宮が居間に入ってくると、両手に持っている複数の大きめな袋をテーブルへと置く。
全てが同じ袋という訳ではなく、それぞれがレジ袋だったり紙袋だったりと、それだけで別の店を回っていたのが察せられる。量としてもかなりのもので、よく一人で持ち歩けたなと感心するほどだった。
「士郎ー。どうしたの、この荷物?」
藤村が一番に声を上げた。
一方通行も少し気になって、首だけを動かしてそちらを見る。

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