ハーメルン
とある英霊の一方通行
近づく異世界

居間は静かだった。
この家で一番騒がしい藤村が消えたのもあるが、単純に人の数が減ったからだ。つい数十分前に桜が倒れて、衛宮はその介護をしている。すぐに帰ってくるものだと思っていたが、意外にもそんな事はないらしい。
容態が酷いのか、それとも寝ているのか。
まぁ、死んでなければ良いだろう。
「……お前ら、今日も巡回か?」
二人だけしかいない部屋で一方通行が口を開いた。もちろん二人しかいないので、その相手は一人に絞られる。
「ええ。こういうのは続ける事が大事です。体を鍛えるにも、腕を磨くにも、同じ事が言えます。……アクセラレータ、貴方も一緒にどうですか?」
「はン。まさか」
ヒラヒラと手を振って、即刻拒否する。
セイバーは善人だという事は痛いほど身に染みたが、それはそれだ。すぐに群れて行動するのも何か違う。
それに、打ち止めならまだしも、セイバーには超能力者並みの戦闘能力があるのだ。わざわざ巡回にまで付いて行って、守ってやる必要なんて何処にもない。
正直、好きにしろだ。
……ただ、
「……お前ら、一応気をつけろよ」
セイバーの方はチラリとも見ずに、テレビの画面を見続けながら一方通行がそう言った。
「────────」
セイバーが少し驚いた顔をした。
一方通行の顔を見続けながら、微動だにせずに固まっている。それほどまでに衝撃的だったのだろう。
だが、セイバーはすぐに、
「──────はい。ご安心を」
何処か嬉しそうに、静かに笑った。
「チッ……今の無しだ」
忘れろ、と一方通行が吐き捨てる。
やはり、似合わない事は言うものじゃない。
少しばかり平和ボケしてしまっている。今日、少しだけ元のクソ野郎時代の感情が戻ったが、セイバーに諭されただけですぐこれだ。
何だか、情けなく感じる。
昔だったらブラックジョークのような悪態を普通に吐いていたと思うのだが。
(……違ェよなァ。俺の柄じゃねェンだよなァ)
と、未だに先ほど言った台詞を思い出す。
別にそこまで引きずる事ではないと思うが、それでも自身の変化に絶妙な違和感を感じた。主に感情的な面に関してだ。
─────木原の言う通り、一方通行は一生汚れている泥の中だ。どれだけ這い上がっても抜け出せないような、泥の奥底に沈んでいる。
それは一方通行自身、理解している事だ。
だからこそ、闇の中にいても守りたいモノを守ろうと、それを貫き通せるほどの悪になろうと誓った。
全ての悪を凌駕するような存在になろうと、『暗部』の中にも躊躇なく突っ込んで行った。
……結局のところ、その考えは数週間で終わる事になったのだが。
(善人も悪人も関係ねェ、か。だとしても、俺は善人なンかじゃ決してねェ。何処まで行っても前科持ちだ)
─────それを理解しているのに、何で自分は先程の台詞を吐いた? 善人も悪人も関係ないと言っても、今までの自分を考えるに、そんな事をわざわざ告げるような人間だったか?
いや、断じて違う。
価値観は変わっても、性格は変わっていない。
多少良くなったとしても、根底の部分の変化は大きくない筈だ。今だって吐き気を催すクソ野郎が目の前に立ったら殺そうと思うし、人助けをしてみようなんて微塵も思わない。
本当に変わってない筈だ。
……だったら、何故?

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