ハーメルン
とある英霊の一方通行
蒼身黒殺

「誰かこっちに来てくれー!!」
バタバタバタバタ!! とヘリコプターが空気を叩く音に負けないような声が聞こえた。暗闇が支配する真夜中は、何十人もの自衛隊が持つ懐中電灯や、三脚で固定された照明のおかげで、明るく照らされている。しかし、明るく照らされていたとしても足場には注意しないといけない。
見渡す限り瓦礫の山。
足を踏み外しただけで怪我になる。
「佐藤さん。ちょっと」
その時、足元を懐中電灯で照らしながら慎重に歩いていた佐藤武良に、後輩である前林涼が隣に立った。
「うん? どうした」
「いえ、それがですね……」
こっちに、と前林が手招きをする。
一瞬、生存者が見つかったのかと思ったが、雰囲気的にそうではないのだろう。前林は汗をかきながら迷う事なく進んでいく。
瓦礫の山を慎重に移動する。
その時間は一分も無い。
「少し見て欲しいものがあるんです」
「見て欲しいもの?」
前林が足を止めた場所は、今まで通りの瓦礫の山だった。違う点があると言えば、単純に瓦礫の量だろう。恐らく高層ビルが倒壊した地点だったのか、異様に瓦礫が重なっている。まるで人工的な丘みたいだ。
前林はその山の周囲を囲むようにしながら、今立っている位置の反対側へと移動し始める。その後を無言で着いていくが、何を見せたいのかが予想できない。
「おい! 一体なにがあるって言うんだ!」
「──────ここです」
そう言うと、前林は再び足を止めた。
それに釣られて足を止める。
二人が見た先は同じような瓦礫の山。だが、一つ目に見える点があった。それは、不自然な穴が瓦礫の山に空いていること。
感覚的には、洞窟の入り口みたいだ。
高さ一メートル程度の大きさで、中は暗闇で満たされている。元からそういう形で作られたみたいな穴が、こちらに向けて口を開いていた。
「────────」
前林は息を呑みながら穴に近づく。
懐中電灯で照らしてみたら分かるが、穴はそこまで深くないらしい。いくら洞窟のように見えたとしても、本当にちょっとした空洞だ。
だから、それは少し中を覗いただけで見えた。


ミチミチ、と。
白い物体が僅かに蠢いていた。


「なんだ、これは……」
白い物体と言っていいかも怪しい。
飛び散ったインクのように無造作に広がっている物体は、バラバラになりながらも動いている。それぞれが別の動きをしていると思ったが、どうやらそれも違うらしい。
バラバラの物体は、違う物体と結合し始めている。テーブルに広がった水のように、共鳴しながら動く白い物体は別の白い物体と合体する。
まるで、見た事もない奇妙な虫を見たかのような感覚がした。キャンプしに行った山で、脚と胴体しかない蜘蛛に会ったような、海外で巨大なカタツムリに会ったような。
ともかく、生物としての危機本能が働いている。
「……佐藤さん。これって、報告した方がいいですよね?」
「そう、だな……」
蠢く物体に劇的な変化はない。
だが、このまま放置しておくのはマズイ気がする。合体を繰り返すたびに、何かが成長している気がしてならないのだ。
と、
「佐藤さん」
前林は神妙な顔をしている。
「今回の大規模爆発の原因って聞いてますか?」
「……未だに原因は分かってはいないらしいな。新都のガスが広範囲で爆発したとか、同時多発テロが起きたとか、色々言われてはいるが」

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