ハーメルン
とある英霊の一方通行
平穏

「オマエが思う『すぐ』ってのは、一体何分のことを指してるンですかね?」
「いや…………すいません」
帰った直後に謝罪だった。
あまりの暗黒微笑に、こちらも冷や汗を流しながら苦笑いしてしまう。
何故だか分からないけど、お互いに笑顔が溢れる変な空間に変わってしまった。
「──────仲良いわね、アンタたち」
その時、テーブルに肘をつきながら座っている遠坂が口を開いた。
その隣には、テレビに視線を向けているセイバーの姿がある。
「……空気読んでくれよ、遠坂」
「ちゃんと読んだからこそ出てきた言葉なんだけど? 衛宮くんは、私の完璧なフォローを分かってくれないのかなー?」
「あー、ありがとうございました。優等生の遠坂さんには頭が上がりませんよ」
優等生の遠坂凛は死んだ。
ここにいるのは赤い悪魔だ。
「ンな事より、結局オマエは何をしてた訳?」
「え?」
そう聞かれて、ドキリ、と心臓が跳ねた。
何をしていたかと言えばイリヤと遊んでいたという簡単な話だ。
だが、この二人に真実を打ち明ける訳にはいかない。何せイリヤはあれでもバーサーカーのマスターだからだ。
どれだけ純粋な子供であろうと、その肩書きは警戒心を生み出すのには十分すぎる。実際問題、遠坂と一緒に襲撃された訳だし、アクセラレータもバーサーカーと戦闘した身だ。
どうにか説得しようとしても、無理があるかもしれない。
「───────子供が困ってるのを見かけたんだ。だから、助けに行った。……それだけ」
「子供が、ね。迷子かどォかは知らねェが、随分と時間がかかったみてェだな」
退屈そうな顔をしながらアクセラレータはいう。
その顔は、まるで何かを見透かしているようだった。
「ごめん」
謝るしか選択肢が無い。
こういう場合は、基本的に謝るのが正解だったりする。変な墓穴を掘らずに済むからだ。
「……まァ、別にいいけどよォ」
アクセラレータは、やはり退屈そうだった。
夜中にやっているテレビ番組に目を移して、時間が過ぎるのを待っているように思える。
これは当たり前の事なのだが、アサシンやキャスターを倒せる程の力を持ったアクセラレータも、こうして日常的な生活を送るんだなぁ、と今更になって実感し始めた。
何故だか、すごく新鮮に感じる。
どれだけ強大な力を持っていようと、一人の少年だと理解する。
「あの、先輩?」
その時、横合いから声がかかった。
見るまでもなく、誰だか分かる。
「どうした、桜?」
「先輩、そろそろお夕飯の準備をしないと……」
そう言われて、ハッとしたように思い出す。
今日一日、色々とありすぎてつい忘れてしまっていた。夕食の支度などは身に染みていると思っていたのだが、まだまだ甘かったらしい。
「分かった。じゃあ手伝ってくれ、桜」
はい、と桜は頷くのを見て、二人して台所へと向かう。いつもは藤ねえと桜と俺で三人分なのだが、今は藤ねえがいない代わりに、セイバーとアクセラレータと遠坂がいる。
三人分から五人分に変わっているので、夕飯を作るのには中々時間がかかってしまう。
別に料理の味を落とすつもりはないが、出来るだけ早く作れるように腕を上げるとしよう。
「そう言えばだけど、今日のセイバーの様子はどうだった? 体調とか悪そうにしてなかったか?」

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/7

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析