交差する魂
燃えるように冷たい。
焼けるように暗い。
腐敗の臭いはしない。
まるで宇宙みたいだ。
裸天に輝く星空が、自分を誘っている。
そこに月はなく、黒い太陽も無い。
いつもとは違う。
それが考えるまでもなく分かる。
「─────────ここは?」
消えるように呟いた。
誰かに問いかけた訳ではない。
ただの疑問が形になっただけ。
そこに意味なんかない。
しかし、答えは明確に返ってきた。
『深層心理、とでも言っておこうか』
振り返る。
冷たい声だった。
酷く冷徹で、そして善意に溢れている。
一瞬、衛宮切嗣を彷彿とさせた。
『ようこそ、衛宮士郎。体の加減は如何かな?』
「……問題ない。至って普通だ」
場違いな回答だった。
このような状況であれば、取り乱したっておかしくない。
宇宙空間に佇む二人。
煌めく夜空。
足元には、暗闇が広がっている。
『そうか。どうやら成功したみたいだな』
安堵したような声だった。
星が煌めく宇宙空間に佇みながら、誰でもない誰かは近づいてくる。
不思議と、警戒心は生み出されない。
「深層心理って言ったけど、結局は何なんだ? 人の記憶の中って事でいいのか?」
『解釈としては間違いないだろう。人の自己は記憶によって形成される。深層心理とは無意識下にある心の在り方のことだが、言ってしまえばそれも記憶の一種だ』
隣に立つ。
向き合うのではなく、まるで同じ景色を共有するかのように対面する。
『これは私の自己だ。今の君と私はお互いに照応している。私は君であり、君は私だ。故に、こうして話せている。まぁ、互いの精神の主導権は私が握っているがね』
そう律儀に説明してくれるが、言ってる事の半分は理解できなかった。
正直、実感が掴みにくい。
自分が別の人間と合体? していると言われても、まったく変化がないのだ。
ただ、話しているだけに思う。
「じゃあここは現実じゃないのか」
『側面を見るのならそうなる。現実世界の君は布団の上で眠っている最中だ』
その言葉を聞きながら、空を見上げた。
───────果てしなく広がる宇宙。
満点に輝く夜空。
世界にはこれ以上の景色が存在するのだろうか?
『君は世界の外側を見ている』
「……?」
『宇宙ではない、世界だ。……君は根源と呼ばれる存在は知っているかね?』
いや、と首を軽く横に振った。
『全ての始まりであり、終わり。あらゆる現象を記録しており、あらゆる現象の源流でもある。呼び方は様々だが、主に「根源」と呼ばれる事が多いな』
オカルトのような話だった。
魔術という異能に触れてきた身であるのに、到底信じられない気持ちになる。
テレビや雑誌、友達との会話で『宇宙人に連れさられて身体を改造された』という話を聞かされている気分だった。
『世界の外側にあるソレは、全ての魔術師が目指す到達点だ。君がよく知る遠坂凛も、曖昧的であろうが例外なくソレを目指しているだろう』
ここで遠坂の名を出すのに意味があるのか。
彼が口にする言葉には、全てに意味があると錯覚させられる。
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